どん底三菱を手に入れた日産ゴーンの「野望」   無慈悲のコストカッターが再び辣腕をふるう
日産の野望

「ゴーン流」の経営術はどこまで通用するのか。日産自動車は10月20日、三菱自動車に2370億円を出資し、発行済み株式の34%を握って筆頭株主となったことを発表した。

日産の事実上傘下に入った三菱自動車の新会長には、日産のカルロス・ゴーン社長兼CEO(最高経営責任者)が就任する。社長には、現在会長と社長、CEOを兼任する益子修氏が留まることになった。日産・ルノー連合は三菱自動車を加え、2016年度の世界販売台数は1000万台に達する見込みだ。他社との提携で拡大路線を突き進むゴーン社長は「世界トップ3の自動車グループの一つになる」と胸を張った。

三菱自動車の燃費不正問題をきっかけにした両社の資本業務提携は今年5月に合意していたが、日産の出資完了を受け、具体的なシナジー(コスト低減効果)も明らかにされた。部品の共同購買や工場の共用などで2017年度に日産は240億円、三菱自動車は250億円を見込む。

日産再建の経験を生かせるか

部品の共同購買は、コストカッターの異名を持つゴーン社長の得意とするところだ。2000年代に行われた日産の経営再建策「日産リバイバルプラン(NRP)」では2万人の従業員削減や5工場の閉鎖と合わせて目玉になった。車のコストの6~7割は部品が占める。日産とルノーは部品の共用化で調達費の低減を進めてきた。ゴーン社長は「系列解体」も推進し、日産が取引するサプライヤーは半減した。

三菱自動車のサプライヤーに対しても荒療治が行われるのか。ゴーン社長は「競争力がないサプライヤーはアライアンスとの取引を失う」と言い切る。日産に供給する部品メーカーとQCD(品質、コスト、納期)で競合させることは明らかだろう。

三菱自動車は10月19日、円高や燃費不正の影響を受け2017年3月期の連結業績予想を下方修正した。純損益は2400億円の赤字と今年6月時点の予想から950億円も悪化。収益性が低下している水島製作所の減損損失も155億円計上した。日産との提携に備え、膿を出し切った形だ。

日産とルノーは独立したブランドを維持しながらも、生産や購買、開発など主要機能の統合を進め、あたかも一つの会社のようになっている。三菱自動車との相乗効果もいかに早く生み出せるか、ゴーン氏の手腕が問われる。会見における主な一問一答は次ページ以降の通りだ。

――5月の提携発表時、ゴーン氏は「日産はあくまでも株主で、再生を担うのは三菱自動車自身」と述べていた。なぜ今回三菱自動車会長の就任へと踏み込んだのか。

ゴーン?取締役会長は取締役会を掌握し、ガバナンスの向上を担う。会社の経営を担うわけではない。私は経営に透明性があるか、予算がきちんと立てられているか、中期計画が策定され、その通りに実力が発揮されているかなどをチェックする。実際に経営するのは、CEOとマネジメントチームだ。

三菱自動車は日産、ルノー、アフトワズ(ロシア)、東風汽車(中国)などで構成される大きなアライアンスの一員になる。最大のメリットを益子さんが受けられるように支援するのも会長の役割。心を開いて相談できる人がなかなかいないCEOをサポートし、アドバイスもしていく。

ただ再建するのはあくまで三菱自動車自身であり、独立性を持つことが重要だ。これは5月の会見から何も変わっていない。日産としては必要な人材、専門性、ノウハウを提供するなどして支援はするが、これはあくまで三菱自の要望があったから。日産から提案したわけではない。COO(最高執行責任者)に就任するトレバー・マンなど一部を除き、日産側の人間が直接三菱自動車のオペレーションにはかかわることはない。

辞めたい益子氏を慰留した

――一方で益子氏は「新体制への引継ぎが役割」と言っていた。社長職にはなぜとどまるのか。


快活なゴーン氏とは対照的に、益子氏には疲労の色がにじんでいた
 
益子?報酬を返上し、新体制ができるまでの引き継ぎをすると話してきた。この考えは変わらず、ゴーン氏にも、新体制発足時には退任したいと伝えていた。しかしゴーン氏からは、三菱自動車の独立経営、新体制のスムーズな船出、信頼回復、シナジー追及を考えると、どうしても残ってほしいと再三強い要請を受けた。この6カ月間の出来事を考えると心の整理がつかず、引き続き経営を担うことを前向きに考えられなかった。

ただ4月に支援を要請して以降、ゴーン氏は情熱をもって再建に取り組んでくれた。新体制を軌道に乗せ、来年度から始まる次期中期計画の道筋をつけることも経営者の責任であると、考え方を整理した。経営責任についての批判はあると思うが、こういう責任の取り方もある。

ゴーン?益子さんは辞めたいと言った。何度も退任したいと言った。ただ私が「残ってほしい」と要望した。辞めてもらっては困る。アライアンスを実現するために重要な条件だった。益子さんとは長年にわたり協力してきており、とても信頼している。「やめたい」という個人的な感情を犠牲にして、三菱自動車の利益、そしてアライアンスのために残ってくれとお願いした。益子さんにはプロ意識があるので、自分の感情よりも会社の利益を優先してくれた。

三菱自動車は日産の子会社や一部門になるわけではない。三菱の従業員には、三菱は三菱のままであるということを理解してほしかった。そのためにも益子さんを慰留した。三菱自身で再生するという力強いメッセージになったと思う。

――燃費不正問題を引き起こした経営責任を問う声も根強いが、要請した側としてゴーン氏は批判の声にどう答えるのか。

ゴーン?益子さんは辞めるべきという人がいるのは理解できる。ただ企業にとってのオーナーは株主だ。これはあくまでビジネスですよ。株主の最大の利益からすれば益子さんは残るべき。それだけです。株主でない方々も含めてみんなに納得してもらうことが私の仕事ではない。CEOの評価は実績で決まる。これがいい決断だったと証明したい。

――両社の提携による相乗効果についてはどのように考えているか。

益子?まだ打ち合わせを始めたばかりだが、現在建設中のインドネシア新工場で来年10月から生産する新型MPV(多目的ワゴン)を日産にも供給し、東南アジア各国で販売する。生産台数が増えることでわれわれの収益性が上がる。物流費の低減や、両社の設備の有効活用も世界各国で検討が進んでいる。また、今後はルノーとも協議をしていく。得意分野が異なるので補完できる。彼らが強みを持つディーゼルエンジンを採用することも考えられる。

ゴーン?プラグインハイブリッド(PHEV)に関しては三菱が技術を持っている。日産やルノーがそれをベースに独自に開発できる。三菱としても開発コストを抑えられる。構成部品を共有できれば、より良い価格条件でサプライヤーとも交渉できる。日産が強みを持つ自動運転やコネクテッドカーなどの技術に関しても、共有できる。シナジー効果の美しいところだ。

復活のカギは開発部門の建て直し

――相乗効果の一つに共同購買を挙げている。たとえば軽自動車を生産する三菱の水島製作所では、競争力の低いサプライヤーとの契約をやめることなどがあるのか。

ゴーン?競争力のないサプライヤーは、水島であれ、(日産の)追浜や栃木であれ、北米や欧州でも、われわれアライアンスとの取引を失う。トップレベルで競争するには必須のことだ。われわれの購買組織の利点は、最高のサプライヤーを採用できるということ。三菱のサプライヤーももちろん歓迎する。競争力のある会社には朗報だが、そうでない会社には朗報でないかもしれない。

――三菱にとって課題である開発部門はどう建て直していくのか。

ゴーン?益子さんからの最初の要請が、経験豊かなエンジニアに開発を統括してほしいということだった。研究開発部門で多くの改革を行わなければ、透明性は担保できない。燃費や排気の問題に取り組むことが最優先だ。

益子?今年6月に日産出身の山下(光彦・副社長、前・日産技術顧問)さんに来てもらって、開発現場で日産のノウハウを積極的に導入しており成果も上がってきている。(日産の組織活性化につながった)クロスファンクショナルチームの運用については、COOに就任予定のトレバー・マン氏がルノー・日産両社で経験豊富。彼の力を借りて三菱にとっての最適な形を考えたい。

また、山下さんには開発現場の工数管理の実態把握、意識改革、業務改革など、総合的に取り組んでもらっている。やはりどうしても人材不足の話は出てくる。最終的な報告を待って、日産に開発陣の派遣をお願いするか、外部人材を招くのかを決める。調査は今6~7合目。全体像が明らかになった時点でゴーンさんに相談する。

――日産はJリーグの「横浜F・マリノス」、三菱自動車は「浦和レッドダイヤモンズ」の親会社だ。今回の資本提携がJリーグの規約に違反するおそれはないのか。

益子?確かに1つのグループが2つのチームを持つことはできない。われわれは現在浦和レッズに5割超を出資しているが、連結対象とならないように対応する(出資比率を下げる)。今月中には正式決定し、公表したい。

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【新聞ウォッチ】日産ゴーン社長が益子社長留任にこだわった本当の理由


気になるニュース・気になる内幕---今日の朝刊(朝日、読売、毎日、産経、東京、日経の各紙・東京本社発行最終版)から注目の自動車関連記事をピックアップし、その内幕を分析するマスコミパトロール。

2016年10月21日付

●三菱自日産傘下入り、ゴーン会長就任、益子社長は留任(読売・2面)

●ポーランドでHV部品生産、トヨタ(読売・12面)

●論点スペシャル、ライドシェア普及するか(読売・15面)

●けいざい深話カローラ半世紀:大衆車とは、追い求めた クルマ離れの時代次の一手(朝日・8面)

●ゴーン氏本紙に寄稿、なぜ三菱自に出資するのか(産経・1面)

●レッズ株の一部、月内売却の方針、リーグ規約抵触撤回で(東京・7面)

●PHV向け大容量電池、トヨタ自社開発へ(東京・7面)

●日産と連携効果400億円、三菱自、ゴーン会長を発表(日経・1面)


ひとくちコメント

日産自動車が三菱自動車の発行済み株式の34%を約2370億円で取得して筆頭株主となり、傘下に収めた。三菱自の会長ポストにはカルロス・ゴーン社長が就任し、辞任の意向を固めていた益子修会長兼社長は、留任に強くこだわったゴーン氏の要請で「社長」を続投する。

ゴーン氏が会長に就任するのに伴い、日産からはすでに三菱自の開発担当副社長に就任している山下光彦氏のほか、専務執行役員の川口均氏と常務執行役員の軽部博氏も取締役に就く。また、日産で世界6地域を統括するチーフ・パフォーマンス・オフィサー(CPO)のトレバー・マン氏が高執行責任者(COO)に就任。益子社長をサポートして経営体制の強化を狙う。

きょうの各紙も、益子社長の留任について取り上げた記事が際立つ。朝日は「益子氏留任『会社の利益』」とのタイトルで、「両氏は記者会見で、信頼回復と連携強化を急ぐ考えを強調したが、益子氏には燃費偽装の責任を問う声も根強い。取引先からは、徹底したコスト削減など、ゴーン氏の『剛腕』を不安視する声も出ている」と伝えている。

産経は「益子社長続投」に「三菱自の負のイメージは容易には払拭できず、再建に向けた重い足かせにもなりかねない」としているほか、東京も「益子氏留任」を見出しに「益子氏留任は『不正企業』のイメージ温存につながる危険性をはらむ」と取り上げた。

では、ゴーン社長は「退任したい」と固辞していた益子社長を強引すぎるほどに続投するように説得したのだろうか。「信頼できる間柄」という人間関係も大きい要因だろうが、それよりも、「これはビジネス。株主の最大の利益を考えれば残るべきだし、円滑な立て直しに必要だ」と述べたところに本音があるようだ。

ゴーン氏の胸の内には日産は、旧安田財閥系の企業が中心の芙蓉グループの一員だが、三菱自を傘下に収めたとで、約600社、総売上高50兆円を超える巨大企業集団の三菱グループとパイプを太くすることもできる。

主要企業29社の会長・社長で組織する三菱「金曜会」のメンバーにも加わることになり、“案内役”として三菱商事出身でグルーブ人脈に精通する益子社長の存在は無視できないと判断したとも思える。
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三菱自動車会長に日産社長のゴーン氏就任を正式発表

日産自動車は20日、三菱自動車工業の株式のおよそ34%を取得し、事実上の傘下に収めました。これに伴い、カルロス・ゴーン社長が三菱自動車の会長に就任する人事を正式に発表しました。



日産自動車は、20日、燃費データの不正問題が発覚した三菱自動車の株式のおよそ34%を2373億円余りで取得し、事実上の傘下に収めました。

これに伴い、日産は三菱自動車の経営体制を刷新し、新しい会長にカルロス・ゴ―ン社長が就任する人事を決めました。
ゴ―ン社長は62歳。平成11年にフランスの「ルノー」から当時、経営危機に陥っていた日産に派遣され、業績をV字回復させたあと、17年にわたって日産の経営トップを務めています。

一方、三菱自動車の益子修会長兼社長は一連の燃費不正問題の責任を取るため、年内をメドに退任する意向を示していましたが、日産からの要請を受けて社長に留任することが決まりました。三菱自動車は12月14日に臨時の株主総会を開いてこうした人事を正式に決めることにしています。

今回の人事で三菱自動車は、11人の取締役のうち、4人が日産から派遣されることになり、ゴーン氏をトップとする新しい経営陣のもとで、経営の抜本的な立て直しを進めることになります。


両社の思惑一致し業界再編へ

「日産自動車」が「三菱自動車工業」を事実上の傘下におさめることになったのは、ことし4月に発覚した燃費の不正問題がきっかけでした。
三菱自動車は主力の軽自動車で燃費をよりよく見せるためデータを改ざんするなど、過去10年間に販売した合わせて29の車種で不正を行っていたことが明らかになりました。その結果、会社のブランドイメージは失墜し、国内販売は大きく落ち込みました。
このため、三菱自動車は失った信頼を回復し、経営を抜本的に立て直すには、すでに軽自動車の開発などで業務提携していた日産の力を借りるしかないと判断したのです。
これに対し日産も、経済が成長しているタイやインドネシアなどの東南アジアで強力な販売網を持つ三菱自動車と組むメリットは大きいとして両社の思惑が一致し、燃費の不正問題は業界再編に発展しました。


国内メーカーは3グループに集約

「日産自動車」が「三菱自動車」を事実上の傘下に収めたことで、国内の自動車メーカーは、「トヨタ自動車」と「ホンダ」の合わせて3つのグループに集約されることになります。

日産は三菱自動車が持つ電気自動車やプラグインハイブリッド車の技術を取り込みながらこの分野の開発を一体化して、世界的に厳しくなる環境規制に対応しようとしています。

トヨタは去年、「マツダ」と技術分野で提携したのに続き、ことし8月には「ダイハツ」を完全子会社化しました。さらに今月、「スズキ」と業務提携の協議に入りました。トヨタは「日野自動車」「富士重工業」それに「いすゞ自動車」とも資本関係を結び、緩やかな連合を形成しています。

ホンダは国内では単独路線を続けていますが、燃料電池車の開発でアメリカのGM=ゼネラル・モーターズと技術提携しています。

自動車業界では、自動運転の分野にアメリカのIT企業、グーグルが参入するなど、先端技術をめぐる開発競争が世界的に激しくなっています。開発には、ばく大な資金が必要なうえ、開発した技術をいかに広く普及させ、利益につなげていくかも各メーカーの課題となっており、1社が単独で取り組むには限界があるとして、合従連衡の動きが相次いでいるのです。


「まず大事なのは信頼回復」

日産のカルロス・ゴーン社長は、記者会見で三菱自動車の会長に就任することについて、「まず大事なのは、信頼回復だと考えている。日産が持つ人材や技術などを生かして三菱自動車の成長に向けて、支援していきたい」と述べました。また、「わたしの役割は、三菱自動車の経営の透明性の確保やリスクの管理などを行うことで経営に直接関与することはない。益子氏は何度も辞めたいと言ったが、提携を進めるには重要なので私から残って欲しいと要請した」と述べました。


「選択と集中を進めていきたい」

三菱自動車の社長に留任することになった益子修氏は「日産からの出資を受けることで、三菱自動車の成長に大きな力になると考えている。傘下入りしたことで、選択と集中をさらに進めていきたい」と述べました。また、「来年度からの次の中期経営計画に道筋をつけるのも経営責任の取り方と考えた。燃費の不正問題が明らかになってからの半年間を考えると気持ちの整理が付かなかった。批判もあると思うが、再建に向けて気持ちを奮い立たせていく」と述べました。


今月中に浦和レッズ株を売却

三菱自動車工業は、日産自動車の事実上の傘下に入ったことに伴い、筆頭株主となっているサッカーJ1の浦和レッズの株式の多くを売却することを今月中に決める方針を明らかにしました。売却先は、三菱重工業など三菱グループとすることで調整しています。
三菱自動車は、日産自動車から34%の出資を受け日産の傘下で経営の立て直しを進めることになり、これに伴って日産はJ1の横浜F・マリノスに加え、間接的に浦和レッズの株式を保有することになります。
複数のクラブの株式を大量に保有すると、Jリーグの規約に抵触するおそれがあります。
これについて、三菱自動車の益子修会長兼社長は会見で、「1つの企業が2つのサッカーチームを持つことはできない。三菱自動車の関係会社とならないよう今月中に機関決定したい」と述べ、浦和レッズの株式の多くを売却することを今月中に決める方針を明らかにしました。関係者によりますと、株式の売却先は三菱重工など同じ三菱グループとすることで調整しています。
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参考

三菱自動車の日産傘下入りが「シナリオ通り」に見えてしまう3つの理由
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