トヨタ スズキ 資本提携が焦点に  スズキ、独自開発に限界  トヨタ「オールジャパン」へ

トヨタ スズキ 資本提携が焦点に

「トヨタ自動車」と「スズキ」は、激しい開発競争が続くエコカーや自動運転など、先端技術の分野で業務提携に向けた協議を始めることになりました。将来の資本提携について両社のトップは今後の検討課題だとしており、実際に実現するかどうか注目されます。



トヨタとスズキは、12日燃料電池車など次世代のエコカーの環境技術や、自動運転の技術など、先端技術の分野で業務提携の検討を始めたと発表しました。記者会見で、トヨタの豊田章男社長は、資本提携の可能性について、「資本も含めてこれからだ」と述べ、スズキへの出資も含め今後、検討を進める考えを示し、スズキの鈴木修会長は、「ゆっくり考えたい」と述べました。
自動車業界では、各国で環境規制が厳しくなっていることを背景に、電気自動車などのエコカーの開発が活発になっているほか、自動運転の分野にアメリカのIT企業、グーグルが参入するなど、先端技術の開発競争が激しくなっています。
このためトヨタはマツダとの提携やダイハツ工業の子会社化に続き、スズキとも提携して緩やかな連合を作り、みずから開発した技術を普及させる狙いがあるものとみられます。両社の協議が将来、資本提携につながるかどうかは、先端技術をめぐる自動車メーカー各社の戦略にも影響を与えるだけに、その行方が注目されます。


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スズキ、独自開発に限界 

 スズキがトヨタ自動車に業務提携を申し入れたのは、世界的に規制の強化が進む自動車の環境・安全技術や、普及が見込まれる自動運転技術の開発を単独で続けるには限界があるためだ。トヨタの先進技術を活用して生き残りを図る戦略だが、提携の具体化はこれからとなる。

 鈴木修スズキ会長は12日の共同記者会見で「(先進技術を)共有しないと自動車を取り巻く環境変化の中で生きていくことができない」と語った。スズキは国内の軽自動車で3割、インドの乗用車で4割を超すシェアを握るが、先進技術では出遅れている。研究開発費(2016年度見込み)は1400億円と、トヨタの1兆700億円の8分の1強にすぎない。

 スズキは当初、エコカーの技術供与を米ゼネラル・モーターズ(GM)から受ける考えだったが、リーマン危機後のGM破綻で当てが外れた。09年に独フォルクスワーゲンと資本・業務提携に踏み切ったが、経営の独立性が脅かされると判断し、提携を解消した。

 トヨタとスズキは今後協議を本格化するが、独占禁止法上の問題が生じる恐れもある。トヨタが軽でスズキのライバルであるダイハツ工業を8月に完全子会社化したためだ。豊田章男トヨタ社長も「必要があれば公正取引委員会に相談する」と指摘。両社がどこまで踏み込んで成果を挙げられるかは見通せない。 

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トヨタ「オールジャパン」へ スズキと提携交渉 

トヨタ自動車がスズキと業務提携に向けて動き出した。世界の自動車産業のリーダー的存在であるトヨタといえど、自動運転や環境対応などの技術は単独で普及させることは難しい。軽自動車の雄でもあるスズキと協力関係を結べば、トヨタの手による「オール・ジャパン」体制が完成する。

■「資本の論理」より先端技術


 トヨタはトラック大手の日野自動車と1966年に業務提携して以降、軽自動車で国内首位のダイハツ工業を含めて一大グループを形成。今年8月には51%超出資するダイハツ工業を完全子会社化し、グループ固めを着々と進めてきた。トヨタ、日野、ダイハツ合計の国内新車販売台数(軽含む)のシェアは2015年で4割を超し、断トツの存在だ。

 一方、この間、トヨタはグループ外への目配りも怠ってはいなかった。2000年代に米ゼネラル・モーターズ(GM)の経営不振が深刻になると、GMと親密だった富士重工業、いすゞ自動車と相次ぎ資本・業務提携。当時は「豊富な資金を持つトヨタが、後ろ盾を失った富士重やいすゞを手助けした」(自動車大手幹部)と評された。

 ところが、それからのトヨタの提携戦略のあり方は変化を見せる。「資本の論理」でグループを拡大するより、相手に技術などを求める姿勢が目立つようになったのだ。

 マツダとは2015年に環境や安全技術で提携したが、トヨタの豊田章男社長、マツダの小飼雅道社長が互いのクルマづくりへのこだわりに共感したことが決め手だったという。資本関係で結びつくというより、将来の技術をにらんだ握手だった。

 20世紀の自動車産業の再編は、世界地図を広げてメーカー同士が規模拡大を競う「陣取り合戦」とほぼ同義だったといえる。しかし、この10年間は環境対応技術などの開発負担を軽減するために手を結ぶケースが相次いでいる。独自路線にこだわってきたホンダが2013年、GMと燃料電池車技術で提携したのも、そのあらわれである。

■同じ志をもった仲間

 自動車を巡る先端技術の革新は早まる一方。環境技術に加え、自動運転などの新しい技術分野が目白押し。そこでは、米グーグルや英アーム・ホールディングスといったIT(情報技術)の巨人などの主導権争いが待っている。

 今回のスズキとの提携にはインドなど新興国の攻略などで協力する面があるのかもしれないが、最も大切なテーマは先端技術の開発にほかならない。まずは環境や安全、ITなどの分野で互いの競争力を高めることが目的だ。そして、IT勢などと競う将来技術の規格を巡る攻防で優位に立つ狙いもあるだろう。

 「自動車業界を取り巻く環境が大きく変わる今、必要なのは『変化に対応する力』。個別の技術開発に加えて、同じ志をもった仲間づくりが重要となってきている」。豊田社長は、こう強調している。両社の関係が将来、どれだけ太くなるかは分からないが、トヨタとスズキが組むのは必然だった。

 トヨタがスズキと手を組むと、ダイハツなどのグループ企業、マツダなど「仲間」のメーカー分を合わせた国内シェアは6割を優に超す。これだけのメーカーを束ね、トヨタは次世代の技術開発競争をリードしていけるのか。それは、日本の自動車産業の将来も左右する。業界の盟主のリーダーシップが改めて問われる。

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トヨタとスズキ、「お見合い開始」会見の真相

豊田章男社長「まだ何も決まっていない」

巨人同士の”お見合い”が始まった。トヨタ自動車とスズキは10月12日、次世代エコカーの環境技術や自動運転技術など幅広い分野で業務提携に向けた検討を始めると発表した。

トヨタは環境や安全、情報などに関する将来の技術開発を急いでいるが、欧米各社よりも標準化の面で出遅れていた。一方のスズキは、軽自動車を中心に価格競争力の高いクルマを作る技術はあるものの、巨額の資金が必要な先進技術で出遅れており、提携先を模索していた。

今回はスズキ側から提案があり、両社が抱える課題を解決するためには業務提携が必要との考えで一致。今回の検討は両社間で自由な競争が行われることを前提にし、両社以外にもオープンなスタンスだという。

同日会見したトヨタの豊田章男社長は「同じ志を持った仲間作りが“もっといい車づくり”に役立つ取り組みを検討したい」と話し、自社の次世代技術を普及させたい考えを示した。トヨタはマツダとも昨年、環境技術など幅広い分野で業務提携することで合意。今年8月には従来からのグループ会社で軽自動車に強いダイハツ工業を完全子会社化するなど、提携戦略を加速している。

GM、VWの次はトヨタだった

一方、スズキの鈴木修会長は「独立した企業として経営していく覚悟は変わりない」としたうえで、「情報技術を中心に自動車産業をめぐる技術競争は急速に変化している。スズキは国内は軽自動車が中心、海外はインドが中心。こうした市場においても従来から取り組んできた伝統的な自動車技術を磨いていくのみでは将来は危うい」と述べ、技術開発で先行するトヨタへ提携の打診をした理由を明かした。

スズキはかつて米ゼネラル・モーターズ(GM)と長年提携していたが、GMが経営破綻したことで分かれ、その後は独フォルクスワーゲン(VW)と提携。ただVWとも企業風土が合わず破談に至った。最後に辿りついたのがトヨタだ。

トヨタとスズキの両トップにはどのような心積もりがあるのか。会見における主な一問一答は次ページ以降の通りだ。


――具体的な提携の中身を教えてほしい。

豊田:今日は、先週鈴木会長からお話をいただいた内容について今後検討していくというアナウンスをした。そのため何も決まっていない。情報技術について話をしたが、今後のエネルギー問題や環境問題を考えると、1社でやれることは限られている。協調や標準化について協議していく。

――将来の資本提携を考えるのか。

鈴木:せっかちな質問だ。ゆっくり考えます。

豊田:ゆっくり考えます。

――スズキはこれまで米GM(ゼネラルモーターズ)や独VW(フォルクスワーゲン)と提携し、痛い目も見てきた。今回トヨタを選んだ理由を聞かせてほしい。

鈴木:これまで60年にわたって、いろいろなメーカーさんと「勉強」させていただいた。

トヨタとスズキはまだ「お見合い」の段階


会場に詰めかけたあふれんばかりの報道陣を前に、豊田社長(左)と鈴木会長はガッチリと握手
 
――トヨタはダイハツ工業を完全子会社化したばかりだが、スズキとどう関係を構築するのか。2社を合わせた軽自動車のシェアは6割になる。独占禁止法に対する考え方は。

豊田:ダイハツとは50年にわたって長い歴史を共にしてきた。だからこそ、トヨタの小型車事業をお任せしようと考えた。スズキとの関係はあえて言うと、まだお見合いの段階。両社や自動車産業の発展に向けて、何ができるかをこれから考える。独禁法についても十分に踏まえて検討を進めていく。両社間で公正かつ自由な競争を行うことが前提になる。

――スズキが得意とするインド事業でどう協力するのか。

豊田:インドはスズキがフロンティアとして開拓した市場。国の発展を思い、自動車産業の発展を牽引してきた第一人者。トヨタもかつては東南アジア各国で同じような取り組みをしてきたので、その思いや苦労には非常に共感することがある。

スズキは誰よりも早くインドに出て地に足をつけ、汗をかいて、チャレンジしてきた。「インドでスズキを活用する」というのはスズキに対して大変失礼。開拓精神を学ばせていただく。

豊田社長は今回の提携をお見合いに例えたが、お互いに惚れた点は?

豊田:2点ある。一つは変化に対応する力。予測できない大きな変化が起きているが、大切なのは変化に臨機応変に対応する力を磨くこと。スズキはそれに長けている。

もう一つは周囲を巻き込む力。優れた商品や技術を開発することに加え、どのようなモビリティ社会を実現するか。社会とのコンセンサス作りなど、巻き込む力が今後ますます大切になる。鈴木会長の人徳が大きいのかもしれないが、スズキの巻き込む力には学ぶところが大きい。

鈴木:結論を言えば、情報技術など自動車産業を取り巻く環境が目まぐるしく変わる中、私どもが(トヨタと)共有しないと生きていくことができない。共有したいという考えが今回のきっかけだ。

遠州発祥同士の「やらまいか提携」

――提携でそれぞれがしたいと思っていることは何か。

鈴木:独立した企業としてスズキを経営していくことに変わりはない。ただ、良品廉価な車づくりをやっていくのでは行き詰まってしまうのではないかという危機感がある。その点で協力していただくというのが大事だ。

豊田:スズキもトヨタも遠州を発祥の地とし、自動織機メーカーとして生まれた。この地には「やらまいか精神」というのがある。「やりましょうよ」という意味だ。

厳しいグローバル競争を生き抜き、革新技術で未来を切り開くことが求められている今、最も必要なのは「やらまいか精神」だ。今回の提携はいわば「もっといいクルマづくりに向けたやらまいかの提携」。それが自分の志だ。

――マツダとの提携の違いは何なのか。

豊田:変わらない点はもっといいクルマ作り。それぞれの会社に思想があり、得意分野がある。トヨタはBMW、マツダ、スバル(富士重工業)、ダイハツと、いろいろな形で提携してきた。今度はスズキだ。学ぶ点はまだまだ多い。

――鈴木会長は最大の課題にメドをつけたと思う。一仕事を終えた実感はあるか。

鈴木:企業経営者にはこれで一段落ということはないと思う。私も例外ではない。経営者である以上チャレンジし、企業経営を社会のためにやっていく。あなたのおっしゃることを参考にさせていただくが、私は全然違うと申し上げたい。

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トヨタ・スズキ提携交渉“第2のトヨス”か


1)はじめに
皆様、大変ご無沙汰をしております。JIDで自動車産業の話題につき寄稿をさせて頂いている、自動車産業担当アナリストです。

今後共宜しくお願い致します。

さて、小職の前回の寄稿は、日産自動車による三菱自動車買収に関するものでした。約半年前の話です。この10月20日には日産が三菱自に2,370億円の出資を完了、34%出資の最大株主となりました。日産・ルノー連合のゴーン会長兼社長が三菱自動車の会長に就任、4人の役員が派遣されました。既に250億円だ、500億円だという双方の会社へのメリットとなる数値も飛び交い、今後、更なる提携強化の具体策に注目が集まります。

 一方で、この半年の間に、ホンダとヤマハ発動機が日本でのスクーター事業の提携を発表、50cc以下の国内における小型バイク市場については、今後、ヤマハはホンダからOEM供給を受けることになりました。つまり国内販売されるヤマハのスクーターは、全てホンダ製になる訳です。1970年代、80年代にHY戦争として熾烈なシェア競争をしたこの2社が、国内だけとは言え手を結ぶなどとは、つい最近まで考えもつかないことでした。

そして今度は10月12日、トヨタとスズキが提携交渉に入るとのニュースが流れ、その共同記者会見がトヨタの東京本社で緊急に開かれた訳です。トヨタとスズキ、略して“トヨス”か? 豊洲に引っ掛け半分冗談に聞こえますが、将来への期待と現実的な問題点が混在するという意味で、豊洲移転問題との類似点もあります。両社にとって、今後の大きな頭痛の種にもなりそうな出来事、それでいて今ここで一歩踏み出さざるを得ない状況でもある、国内再編の最終章なのか、まだまだ続きがあるのか、国内外に大きな影響を与えるかもしれないこの提携イベント、ここで詳しく分析させて頂こうと思います。


2)日本は3グループに集約
トヨタ自動車が現在提携している日本の自動車関連企業は次の通りです。(図1:トヨタと提携している自動車会社とその内容)即ち、トヨタを含む7社が、広義な意味でグループを形成していると言えます。今回ここに、スズキが入り、メンバーは8社になるということになります。これ以外では、前述の日産(ルノー)・三菱連合、そして単独のホンダ、という組み分けとなります。つまり、日本の自動車関連企業では、大きく3つのグループに集約された、と言える訳です。


自動車 産業 toyota ss

この集約ですが、その要因としてよく言われるのは、1)規模の拡大 2)技術的補完 3)救済統合 の3点です。ルノーが日産を買収した、日産が三菱を買収した、これは完全に3)の救済統合型です。トヨタがダイハツへの出資比率を段階的に引き上げ、最終的に100%の完全連結子会社にしたのも、救済ではないにしろ、垂直統合によるトヨタとの一体化です。

 富士重はGMと提携をしていたものが、GMが倒産し株の売却を余儀なくされたこと、富士重自体の収益も悪化し、一時期米国工場でトヨタ車の受託生産を受け持ち、トヨタとの提携の道を探ったという背景があります。1)と3)の双方の側面を持つ例でしょうか。いすゞもGMと提携していましたが、やはりGMの経営不振により関係解消、その後ディーゼルエンジンの共同開発などの理由でトヨタに株式を引き取ってもらったという背景ですが、ディーゼルエンジン技術を狙った2)の技術的補完の側面が大きかったと言えます。但し、この共同開発構想は実を結ばず、現在では事実上、中止となっています。

ヤマハは、その昔、F1などでハイパフォーマンスエンジンの開発を進め、トヨタの2000GTなどのエンジンも供給、現在でも一部のレクサス車にエンジンを供給しています。2)の要素が強い提携ですが、現在ではヤマハからのエンジンの販売数量は減少の一途です。

そして昨年、マツダとの提携を発表、こちらは出資関係は全く無し。豊田社長曰く、“一緒にもっといい車を作ろうよ”、“婚約した”ということになっていますが、具体的な協業は、トヨタからマツダのアクセラなどにHVユニットを供給していること、ダイハツ製の軽自動車をOEMでもらい、国内で販売していることぐらいでしょうか。将来、米国でのZEV規制強化などもにらみ、トヨタからマツダがPHVなどの技術供与を受けるとの見方や、富士重同様、スポーツカーの共同開発に乗り出すという噂もありますが、現在の“婚約状態”から“結婚”に移行するのか、正式に固まったものの発表はまだありません。

これに続くのが今回のスズキとの提携ということになりますが、こちらもまだ、提携交渉の検討を始める、という段階で、詳細は何ひとつ、決まっていない、豊田社長曰く、“お見合いの段階”というのが現状です。

3)トヨタより日産の方が理に適う
報道では、この9月に、スズキの鈴木修会長が、トヨタの豊田章一郎名誉会長のところに出向き、提携を申し入れた、ということになっています。今年1月に日経新聞がスズキとトヨタが提携などと報じた時には、修会長は全面否定で激怒したとも伝わっていただけに、この間、何か心境の変化でもあったのでしょうか。

この日経のように、以前からスズキがトヨタと提携するのではないかとの観測は、メディアやアナリストの中にも漂っておりました。スズキは以前、GMと提携していた時期が長く、車両のOEM供給やカナダでの共同生産、GM車の日本国内での輸入販売など、その提携関係は友好裏に継続していたのですが、2009年のGMの破綻を期にGMがスズキ株を売却、提携は解消されました。その後、スズキはVWとの提携を決め、VWはスズキに20%弱の出資をしたのですが、その後、VWがスズキを一方的に持分適用会社に組み込み、VWがあたかもスズキを子会社のように扱い始めたことにスズキが反発、国際調停裁判所での係争を経て、昨年末にVWがスズキ株を売却、提携は終了しました。

 今回のトヨタとの記者会見でも、修会長は“スズキは独立した会社として経営していく”と話しています。それはその通りなのでしょうが、過去を見ると、このようにGMやVWとの提携を模索し続けてきたのが実態です。トヨタと並んで、世界の1,000万台クラブの両雄と既にビジネスをやってきた歴史がスズキにはある訳です。よって、VWとの提携が破綻した時に、次は誰と提携するのか、という疑問が出たのは自然なことです。その際、トヨタと提携するという意見と並んで、いや日産の方が適しているのではないか、という意見も一部にありました。そう、VWの後に組めるのはトヨタか日産しかない、やはりトヨタとの声が多い一方で、日産の方がよりしっくりと行くという、そのような意見も多かったのです。

 現在、日産のゴーン社長は三菱自の買収を終了、ゴーン社長自ら三菱自の会長に就任、34%出資を果たし、早くもシナジー効果を算出しています。PHVでの協業、インドネシアからの三菱自製MPVのOEM供給、共同調達、プラットフォーム統合、云々です。これはこれで、統合効果を発揮すべく、今後更なる施策が出てくると思いますが、三菱自以上に、ゴーン社長が欲しかった会社、それが実はスズキであった、と個人的には思っています。

 今後、トヨタはスズキと傘下のダイハツとの関係調整に苦しむはずです。いまだにトヨタによるスズキへの出資の話が出て来ないのは、独禁法に抵触する恐れがあるからです。国内軽自動車市場でトップの、ダイハツとスズキ、2社のシェアを会わせると軽く60%を超えます。また、スズキは日産やマツダに、ダイハツはトヨタや富士重にOEMで車を供給していることもあり、生産台数では、2社合計が70%を超えることになります。結果、トヨタがスズキに出資することで、独禁法に抵触する可能性が出てくる訳です。

その点、日産は三菱自との軽自動車の合弁を持ってはいますが、日産・三菱自両社合せても、そのシェアは13%程度、仮にスズキと合計しても国内シェアは40%程度です。燃費偽装問題で、日産も三菱自も軽自動車の販売は激減、次期車は日産が主導で開発しますが、市場投入は随分と先、当面日産と三菱自の軽自動車事業は低迷を続ける可能性が高い訳です。

 日産とスズキの間では、所謂地域や車種のオーバーラップは、この軽自動車以外では殆どありません。日産の収益頭は米国と中国ですが、共にスズキの存在は無いか極めて小さいものです。スズキはインド・パキスタン・インドネシア・ハンガリーなどで工場を展開、特にインドのマルチ社は乗用車で40%以上のシェアを獲得、スズキの収益の半分以上をインドから挙げており、当面この状況に変化は無いと思われます。これに対し日産のインド事業は惨たんたるものです。三菱自を介して東南アジアでの存在感を増す計画である日産、ここにインドでダントツに強いスズキが加われば、日産の事業基盤は磐石とも言えます。

また、日産とスズキは共にJATCOに出資しています。JATCOは日産系のトランスミッションメーカーですが、出資比率は日産75%、三菱自15%、スズキ10%です。ATと共にCVTの生産に強く、上記3社やルノーなどに販売、売上高は7,000億円を超える大企業です。エンジンと並んで、車の心臓部であるトランスミッション、その同じ生産会社に、日産とスズキは共に出資している訳です。それなら、ゴーン社長お得意の、部品の共有化・調達コストの削減には、スズキは相手としてうってつけです。スズキの世界生産台数は約280万台。日産自+ルノーの生産規模は850万台程度(含むアフトワズ)ですから、単純に合算すると1,130万台、これに三菱自の約100万台を更に足すと、合計は1,200万台を超え、トヨタの1,000万台を大きく上回って、まさに世界一の規模となる訳です(図2)。

 日産は“モコ”で軽自動車市場に参入した訳ですが、これはスズキの“MRワゴン”の姉妹車、全てスズキからのOEM供給であった訳です。このような背景から、日産やゴーン社長から、スズキに非公式な提携交渉の要請が来ていたとしても、全く理に適う訳で、お見合いの相手としては、トヨタよりも日産の方が、より相性がいいとも思える訳です。

自動車 産業00

©Japan In-depth編集部
ところが今回、スズキはトヨタを選んだ。豊田社長曰く、まだ“婚約”ではなく“お見合い”の段階、ということですが、とにかく相手は日産ではなかった。噂の域を出ませんが、修会長がゴーン社長やその経営手法を嫌った、とも聞いていますが、こればかりは憶測の域を出ません。今回の提携に関しては、トヨタもスズキも遠州(静岡県西部、湖西市から浜松市)が発祥の地であり、両社共に自動織機の生産から始まった、修会長とトヨタの豊田章一郎名誉会長が懇意の中である、スズキの鈴木俊宏社長も、元はデンソーに務めていた、よってトヨタとスズキは相性がいいのだと。

また、歴史を振り返ると、スズキはトヨタに2度助けられており恩がある。1度目は1950年代初め、労働争議と景気悪化により経営危機に陥り、トヨタの親会社とも言える豊田自動織機に資金援助を求めたこと、2度目は1970年代後半に、排ガス規制の対応に遅れたスズキが、ダイハツからエンジン供給を受けたこと。ただその一方で、スズキはそのダイハツと国内軽自動車市場で熾烈な戦いをしており、スズキの最大の敵はダイハツであることも確か。また、1990年代には、当時のトヨタの社長、奥田氏が、軽自動車の枠自体を撤廃する方向で動き、当時の修社長と侃侃諤諤の敵対関係になったことは記憶に新しい訳で、助けてもらったこともあるが、激しい喧嘩をしていた時もある、というのが実情、恩ばかりを感じている訳ではなのです。


4)俊宏社長CEOはどこにいる?

10月12日の記者会見、場所は後楽園にあるトヨタの東京本社、会見に臨んだのは、トヨタ側が豊田章男社長、スズキ側が鈴木修会長。よく考えるとこれはおかしい。スズキ側は何故、俊宏社長ではないのか。いや、トヨタに提携を申し込んだのは修会長だから、実権はまだ修会長にあるから、云々。86歳の修会長がまだお元気であることは確か、その発言内容も面白い、はっきりと考え方を伝えるプレゼンテーション能力はまだまだ健在、それはその通りです。

しかし、5月に発覚した燃費測定方法の偽装の責任を取って、修会長はCEO職を俊宏社長に渡しました。つまり、スズキ株式会社の代表取締役CEOは、鈴木俊宏社長な訳です。トヨタとの歴史的な提携の記者会見、それもトヨタ側は豊田章男社長なのだから、スズキ側も鈴木俊宏社長でなければおかしい、と思うのはこの筆者だけでしょうか。

俊宏社長は社長就任からほぼ1年が経ちましたが、ただでさえ偉大なる親父さんと比較され、やれ線が細いだの、経営能力が無いのだのと、外野から揶揄されっぱなし、修会長が34年間の社長・会長職を歴任しているのに対し、俊宏社長はまだ1年間の経験しかない訳で、比較対象する方がおかしい。修会長は完全に権限が禅譲されるまで5年間ほどはかかると某誌でお話をされているようですが、今回の共同会見に社長が出ずして、何の肩書きだろうかと大変残念に思う訳です。

この会見を見ていると、今回の提携は本当に全て修会長主導によるもので、俊宏社長には後から結果が通告されただけ、という印象を持たざるを得ません。社長交代の際、修会長が公言していた通り、経営方針の決定は会長が行い、社長はそれを執行するだけ、ということになります。これが示唆するところは、やはり修会長が引退する前に、スズキという会社にトヨタというセイフティーネットをかけておく、そのことでスズキという企業の将来への心配の種を最小限に抑えておきたい、ということなのでしょう。共同会見で、両社の提携内容の詳細は一切語られませんでした。それはそうでしょう、まだ何も決まっていない(豊田社長)のだから。ただ世間に、この2社は今後協業に向けて話し合っていく、というメッセージを投げること自体が重要だったのでしょう。修会長から見て、ここ4-5年はまだスズキ1社でがんばれるにしても、2020年か、2030年か、今後10年ないしはその先の段階で、自動運転やIOT技術、PHVやEV・FCV技術がどこまで発達しているのかはわからないが、やはりそこまでの技術革新をスズキ1社でやり遂げ、かつ競争に勝ち続けるのはしんどい、修会長の腹の中はこうでしょう。スズキの将来への保険、競争に勝ち続ける上での担保、今回の提携の性格はそういうものだと考えます。

5)そしてホンダはこれからどこへ行く?

これで日本は3つのグループに収斂したことになります。トヨタ大連合、日産・三菱連合、そしてホンダです。ホンダは従来から提携を是とせず、孤高な姿勢を貫いてきました。1980年代に英国で当時のローバーと提携、高級車レジェンドを開発するにあたってのノウハウを勉強する、という目的でしたが、これが見事に失敗、この影響からか、その後もホンダはただひたすら独立独歩で経営をすることが原則となり、出資を伴う・伴わないに拘わらず、大半の業務で一人っ子政策を取ってきました。最近になってようやく、燃料電池車(FCV)の開発などで、GMとの共同開発を進めるようになりましたが、あくまでも技術開発の共同作業であって、出資を伴う提携など、全く視野には入っていないように見えます。

この数年間のホンダは苦労の連続、タカタのエアバッグ、フィットなどの相次ぐリコール、円高による大幅な減益、米国・中国での新車販売の低迷、ハイブリッド車での躓き、国内販売の軽自動車への過度な偏り、などなど。今週もシビックで、タカタのエアバッグ関連での11人目の死者が出たばかり。タカタの救済プランでも、米国の投資ファンドなど、5つのグループがタカタへの経営参画を発表していますが、全てのグループがタカタの法的整理、即ち倒産を前提にした再建策を立てており、今まで数千億円のリコール費用の負担をしてきたホンダにとっては、胃が痛くなるような局面が続きます。

トヨタとスズキの合同会見の際、豊田社長は“トヨタはお友達を作るのが下手だ”、と述べていましたが、ホンダはこれに輪をかけて下手である、ということかもしれません。提携とか出資とか言うと、何か人に頼って、ないしは人のふんどしで相撲を取るようなイメージもありますが、実際はそうではなく、お友達作りをしながら、相手を自分の陣地に引き入れる、自分のやり方を他の人たちにも広める、つまり“デファクトスタンダード”作りをする、ということに他なりません。HVしかり、PHVやFCVしかり、今後の自動運転を見据え、その画像解析技術や高次元3Dマップ、IOTやビッグデータの処理など、日本式、欧州式、米国式といろいろな方式が混在、日本の中でも、トヨタと日産とホンダはお互いに競争し合うばかりで、良い意味での協調はしてこなかった、それが日本が世界で家電も半導体もコンピュータも携帯電話でも負けた理由である、とも言われます。自動車、ましてや今後の次世代型自動車の部分で、日本は負ける訳にはいかんのです。

ホンダはこれからも孤高な立場を貫くのか、GMとの付き合いを深めるのか、それともGM以外の企業との結びつきを模索するのか、出資する、ないしは出資を受け入れる、そんなオプションまでも考えるのか、全く相手にもしないのか。ただ言えることは、その提携相手の候補企業がどんどん少なくなっているということでしょう。仮に提携を模索する段階でも、周りには誰もいなくなった、となりかねない状況。または提携の相手は、必ずしも自動車会社とも限らず、グーグルやアップル・マイクロソフトに見られるようなIT系企業だったり、ウーバーなどの異業種だったり、勿論日本企業とは限らない、ということかも知れません。

ただ、自分の得手ではない土俵で、提携先との協業がうまくいくのか、ただ単に飲み込まれるだけ、それならば、やはり自前でやった方が良いという判断もあります。

二輪車でヤマハにOEM供給する、というのは小さな変化ですが、ロボットやビジネスジェットに進出する過程でも、技術提携・共同開発が必要となることは必至でしょう。トヨタとスズキの合同会見では、“見合い”だ、“婚約”だという言葉が飛び交いましたが、この分野ではA社、あの分野ではB社と、やや不適切な言葉になるかもしれませんが、結婚相手が、ないしはパートナーは何人いても結構、という世界なのでしょう。それこそホンダは四輪・二輪・汎用・ロボット・飛行機と何でもありな訳で、今問題の多重国籍、また一夫多妻制の最先端を行ってもいいのかもしれません。
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