日産と三菱にシナジー効果はあるのか? /日産ゴーンがダメな三菱自動車を買う理由

日産と三菱にシナジー効果はあるのか?

燃費データ不正が発覚した三菱自動車に支援の手を差し伸べた日産。その戦略上の狙いに沿う形で、果たしてシナジー効果は生まれるのだろうか?

 三菱自動車の燃費データ不正問題はその問題の大きさから三菱の存続にかかわると思われたが、急転直下、日産からの2370億円もの資本的救済という形で一応の決着を見た。

 事態が予定通りに進ちょくすれば、日産は三菱自動車の株式の3分の1を越える34%を有する最大株主になり、資本を通して一定のガバナンスを期待できる立場となる。株主総会の特別議決を単独で支配して取締役の解任や合併などの重要決議をするには3分の2が必要で、裏返せば日産が3分の1を越える株式を持っている以上、特別議決権を行使できる存在は現れないという理屈だ。

 もちろん51%以上を持って普通議決権を有する状態とは違うが、少なくとも拒否権を備え、一定の支配力を持つことは間違いない。つまりこうした権利を確保するために三菱自動車株の時価で34%を算出した結果が2370億円ということだ。

 日産自動車CEOのカルロス・ゴーン氏と三菱自動車の益子修会長が揃って行われたアライアンス発表の記者会見では、アライアンス後も、日産と三菱はそれぞれ独立したブランドであり、日産は株主の立場に過ぎないと強調された。
 
日産自動車のカルロス・ゴーンCEO

 
 三菱全体を日産に飲み込むことはしないし、生産拠点や販売拠点についてもつまみ食いして日産側に組み入れるようなこともしない。それはルノーと日産の15年を超える対等なパートナーシップによって証明されているという。

電撃アライアンスの仕掛け

 今回のアライアンスでは、日産、あるいはそのCEOであるゴーン氏の鮮やかな手腕が光ったと評されている。ルノー・日産アライアンスのグローバル販売台数は853万台。これに三菱自動車の122万台を加えると、限りなく1000万台に近づく。単純な足し算とすれば、現在トヨタ、フォルクスワーゲン、GMが争うトップ集団に一気に追いつくことが可能になる。
 
日産自動車の横浜本社

 
 今回のアライアンスは誰がどう見ても、助けた側と助けられた側という構造である。普通に考えて三菱自動車は、今まさに燃えさかっている最中で、「助けてくれ」と言える相手は極限られている。日産側は今後の軽自動車の供給をどうするかという問題が発生するものの、切実度は三菱とは桁が違う。沈思黙考して判断できる立場である。34%という比率も恐らく日産側の要求だろう。状況に乗じて、買い手有利なタイミングでアライアンスに持ち込んだことを指してゴーン氏のさすがの手並みと言うわけである。

 今回のアライアンスのメリットについて、記者会見でゴーン氏がどう語ったかと言えば、このアライアンスは両社が大きなシナジー効果を上げる「win-win」の関係であり、短期的な三菱の救済だけではなく、将来を見据えた戦略的なアライアンスとして価値があるとのことだった。三菱に十分再生可能なポテンシャルがあると見立てての発言である。

 2020年代の自動車産業を考えれば、1台に5億ドルもの費用がかかるプラットフォームの開発や、自動運転、電気自動車などの先端技術開発のコストが、三菱の規模では負担しきれなくなる。三菱に比べればはるかに大きい日産であっても、共用化によるコスト低減効果は大きい。

 そうした背景によって長期的なアライアンスについては2011年に日産と三菱が各50%を出資して作った軽自動車専業メーカー「NMKV社」の設立以来、ゴーン氏と益子氏の間で長らく温められてきた懸案でもあり、それが今回の一件で一気に加速したと言うのが両氏の説明だった。

アライアンスで生まれるもの

 ゴーン氏が具体的に挙げたシナジー効果は「部品購買、プラットフォーム共用、新技術の開発分担、生産拠点の共用、成長市場での協業に対してコスト低減効果がある」というものだ。

 部品の購買については、典型的な「規模の経済」方式だ。電子化が進む昨今の自動車ではサプライヤーから供給を受ける部品がどんどん複雑化しており、当然価格も上がっている。これを数の原理によるバイイングパワーで押し切ろうという話だ。

 プラットフォームについては上述の通りで、これまでそれぞれが負担してきた開発費用が一本化できるし、新技術の方向性では、両社とも電気自動車をターゲットとしており、これも一本化すれば開発コストが低減できる。

 では生産拠点はどうだろうか? それを考えるためには地域マーケットでの販売台数をつかんでおかなくてはならない。ということで「成長市場での協業」を先に見てみよう。

 ルノー・グループ(ルノー、ダチア、ルノー・サムスン)と日産自動車、三菱自動車では重視するマーケットが違うので、決算書で開示する販売台数のエリア分けが異なり、それ故に表記も異なる。例えば、ルノーの言う「ヨーロッパ」と、日産の言う「欧州」は同じエリア区分ではないから、直接の比較はできない。厳密に言えば決算期も異なるので、販売台数も時期が少しずれる。その辺は多少の誤差があるものとして、1万台以下を四捨五入した数字をざっと並べてみる。

ルノー・グループ

ヨーロッパ 145万台

ユーラシア 39万台

アフリカ/中東/インド 31万台

アジア太平洋 13万台

米国 42万台

日産自動車

日本 57万台

中国 125万台

北米 152万台

欧州(含むロシア) 75万台

その他(アジア・オセアニア/中南米/中東/アフリカ) 84万台

三菱自動車

日本 10万台

北米 14万台

欧州 20万台

アジア 32万台

 各社の得意とするマーケットは、ルノーがヨーロッパ、ユーラシア、アフリカ/中東/インド。日産が北米と中国。三菱がアジアと欧州ということになるだろう。

 気になるのはアジアだが、日産ははっきりと中国が中心で、三菱はアジアのうち3分の2がタイでの生産であり、それは取りも直さずASEANでの販売が中心ということになる。

 つまり、欧州と北米、中国まではカバーしていたルノー・日産アライアンスは、2020年代に向けた成長マーケットであるインドとASEANへの手掛かりがつかめずにいた。しかし、今回三菱をアライアンスに組み込むことで、少なくともASEANへの橋頭堡(きょうとうほ)が築けたことになる。ルノー・グループを中心に考えれば、ルノーが強い旧西欧と併せて、傘下のダチアが東欧、ロシア、中東をカバーし、日産に北米と中国を任せる。これに三菱をASEAN担当とすることで、グローバルマーケットの各地域への布石がコンプリートすることになる。

強豪ひしめくマーケット

 三菱自動車の生産拠点には、パワートレイン専用工場と完成車工場の2種類がある。よりコストのかかる完成車工場を見ると、国内は岡崎、倉敷、岐阜の3拠点。海外では北米、ドイツ、タイ、フィリピン、中国にそれぞれ1拠点ある。

 現在の三菱の状況を見れば今後の国内販売展望は絶望的だろう。日産も国内販売の見通しは明るいとは言えない。体制を変えて巻き返しを企図しているものの、現状を見る限り進行形で凋落(ちょうらく)の最中。国内工場は両社とも輸出用に稼働させると見た方が良い。

 ルノーの新車販売はほぼ全世界で横ばい、もしくは微減の流れであり、生産設備の増強が必要な状況ではない。となればドイツの工場に興味を持つタイミングではない。やはりASEAN向け生産拠点であるタイとフィリピンが魅力になってくるはずだ。

 一方、日産は北米が順調だ。日産の立場からすれば、三菱の北米工場には利用価値が出てくる。もちろん北米経済の順調な推移が前提になる。

 絵柄をトヨタになぞらえると、もう少し分かり易い。三菱の立場はトヨタにとってのダイハツと同じだ。小型車のスペシャリストとしてASEANへの切り込み隊長を担う。ただし、その実力が拮抗しているかと言えばそういうわけではない。三菱とダイハツの現時点の実力にはかなりの隔たりがあると考えられる。今後20年の激戦区であるインド/ASEANで戦うためには日産が相当に後押しをしないと難しいだろう。会見の中でも益子会長は「日産からの開発面での人的支援に期待する」という発言があったことからもそれはうかがえる。

 これが日産が今回のアライアンスで描いた青写真だ。確かにルートは繋がっているだろう。成功のルートマップが存在しないプランではない。しかし、競合各社の実力を考えると、それはそう簡単な進軍路ではない。青写真が実現できるかどうかは、まだ論じるには早すぎるタイミングだ。
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日産ゴーンがダメな三菱自動車を買う理由

不祥事が未解決でも傘下にする野心とは?

「三菱自動車がアライアンスファミリーの新たな一員となる。信頼を回復し新たなビジネスチャンスをつかむ」。日産自動車のカルロス・ゴーン社長は、5月12日の会見で自信満々だった。

軽自動車の燃費偽装問題に揺れる三菱自動車に対して、日産は2373億円を出資し、事実上傘下に収める。10月に予定する三菱自の第三者割当増資を日産が引き受けて、三菱自株の34%を取得。三菱グループを上回る筆頭株主になる見込みだ。

日産と三菱自は、2011年に軽自動車の共同開発を行う合弁会社を立ち上げ、三菱自が生産する車両を2013年から両ブランドで販売してきた。不祥事発覚からおよそ3週間。全容解明が進まない中で、日産は火中の栗を拾う形で三菱自の救済に乗り出す。

追い詰められた三菱自動車

リコール(回収・無償修理)隠しで、2000年代に2度の経営危機に瀕した三菱自が三たび、窮地に陥っている。

軽自動車「eKワゴン」「eKスペース」と、日産向けに供給する「デイズ」「デイズルークス」の4車種について燃費データを改ざんし、実際より最大15%よい燃費を届け出ていたことがわかった。きっかけは日産からの指摘。現行車種までは三菱自が開発を担ったが、次期モデルから開発する日産が現行車を測定した際、説明できないデータの乖離を見つけたという。

調査の過程では別の法令違反も浮上した。1991年以降、燃費を測定するためのデータを測る際、国内の道路運送車両法で規定される惰行法でなく、米国で使われる高速惰行法を採用。惰行法で測定していたのはわずかな車種にとどまった。四半世紀も法令違反を続けたことになる。

三菱自は2014年に懸案だった優先株を買い戻しで処理。2016年3月期末で自己資本比率48%、約4500億円の現預金を持つ。即座に資金繰りに窮するわけではない。
 

が、4月20日以降、三菱自は当該軽の生産・販売を中止したこともあり、4月の軽販売は前年同月比の55%に激減した。今後も販売再開のメドは立っておらず、たとえ再開できたとしてもブランドイメージは毀損している。「私どもで信頼を取り戻すのは困難」(三菱自の益子修会長)だ。

さらに軽以外にも疑惑が広がったことで、国内乗用車メーカー最下位でわずか10万台の国内販売は、大幅減が確実だ。販売台数の9割以上がアジアを中心とする海外で、国内依存度は低いとはいえ、母国市場の撤退となれば、経営へのダメージは大きい。

また三菱自の生産は国内が55%を占めている。国内最大の生産拠点である水島製作所(岡山県倉敷市)は日産への供給分が大半。今後を見据えると、日産から切り捨てられるわけにはいかなかった。

軽とアジアが欲しかった日産


会見では終始ゴーン社長の強気な姿勢が目立った
 
日産にも三菱自を見捨てられない事情がある。一つには軽がいまや国内販売には欠かせない存在だからだ。

「デイズ」と「デイズルークス」は日産の国内販売全体の約4分の1を占める。4月の日産の軽販売は、前年同月から半減以下まで落ち込んだ。不正の影響はむしろ日産のほうが深刻ともいえる。

軽の次期モデルでは日産が開発を担当するものの、生産は引き続き三菱自の水島製作所の計画だった。軽に求められる低コスト生産のノウハウは三菱自が優れている。三菱自を見切った場合、自社で軽の生産に乗り出すか、他のパートナーを探すしかない。

もう一つが日系他社に比べて伸び悩んでいる東南アジア市場の開拓だ。

タイやインドネシアではSUV(スポーツ多目的車)「パジェロ」やピックアップトラック「トライトン」を擁する三菱自の人気は根強い。それを日産が取り込めれば、東南アジアの勢力図は一変する。

しかし、問題の全容解明が遅々として進まない中、資本提携を急ぐことに疑問を呈する声も強い。「日産が三菱自を救済することに違和感はないが、不正問題がどこまで拡大するか読めない段階では、時期尚早で意外感がある」(ナカニシ自動車産業リサーチの中西孝樹アナリスト)。

これに対して会見では両トップとも、「2011年の合弁設立から提携拡大を話し合っていた」と口をそろえる。

仏ルノーのトップも兼ねているゴーン社長はかねてから、「自動車業界はスケールメリットが重要」と、世界ビッグ3入りを目指してきた。

狙うは世界ビッグ3の一角

自動車業界の熾烈な競争で勝つには、環境対応や自動運転のための巨額投資が必要で、規模拡大が必須とゴーン社長は信じている。2015年の日産ルノーの世界販売台数は世界4位。三菱自を加えれば上位3社に肉薄する。国際自動車ジャーナリストの清水和夫氏は「これは手始め。ゴーン氏はルノーと同じ仏政府が筆頭株主のグループPSA(プジョーシトロエン)との連合も視野に入れているはず」と分析する。

世界一になる。三菱自の救済はゴーン社長の野望に向けた第一歩かもしれない。



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2016年5月2日(月)
三菱自動車の下請け7800社、不正影響拡大が懸念…帝国データバンク

帝国データバンクは、三菱自動車グループの下請企業実態調査結果をまとめた。

企業概要データベース「COSMOS2」の中から、三菱自動車グループと直接、間接的に取引がある下請企業(一次下請先、二次下請先)を抽出し、社数・従業員数合計、都道府県別、業種別、年商規模別に調査・分析したもの。三菱自動車グループの下請企業実態に関する調査は、今回が初めて。

それによると三菱自動車グループの「一次下請先(仕入先)」は796社で、さらに一次下請先と取引を行う「二次下請先」が6981社となった。この結果、直接、間接に取引がある下請企業の合計は全国で7777社にのぼることが判明した。

これら一次下請先、二次下請先の総従業員数は41万1832人に達した。燃費の不正が明らかになっている軽自動車4車種の生産停止期間や、他の車種への影響の広がりなど、今後の三菱自動車グループの動向次第では、少なからず影響を受ける下請先が出てくる可能性もある。

一次、二次下請先の合計を都道府県別に見ると、名古屋製作所(岡崎市)がある「愛知県」が1409社でトップ。次いで「東京都」の1228社、「大阪府」の1009社が続いた。

このほか、生産拠点のある県を見ると、水島製作所(倉敷市)がある「岡山県」が509社、パワートレイン製作所(京都市)がある「京都府」が270社となっている。

業種別では、一次下請先は自動車部分品製造が45社で最も多い。金属プレス製品製造の27社、一般機械器具卸の25社、機械工具卸の24社、金型・同部品等製造の22社が続く。

二次下請先では、鉄鋼・同加工品卸が263社でトップ。以下、金型・同部品等製造の250社、金属プレス製品製造の235社などが上位に名を連ねた。

年商規模別に見ると、一次下請、二次下請ともに「1億~10億円未満」が最も多く、合計で4082社、全体の52.5%と半数以上を占めた。以下、「10億~50億円未満」が1894社、「1億円未満」が905社の順となった。比較的売上規模の大きい下請先でも、売上全体の多くを三菱自動車グループ関連に依存しているケースもあった。

帝国データバンクでは、「三菱自動車グループの下請企業は、主な生産拠点のある愛知県や岡山県などに集中しており、問題となっている『eKワゴン』などを製造している水島製作所がある岡山県の下請企業への影響は深刻。三菱自動車グループからの受注に依存している下請先も見受けられ、特別調査委員会による調査結果のほか、今後の同社グループの動向次第では、これらの下請企業への影響拡大が懸念される」としている。


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