三菱自動車の日産傘下入りが「シナリオ通り」に見えてしまう3つの理由
日産の野望

三菱自不正  地方から見る

燃費不正問題で揺れる三菱自動車が日産自動車の傘下になることが決まった。

 「どうせまた三菱グループが助けるんでしょ」という大方の予想を裏切るサプライズは、市場も好意的に受け取ったようで資本提携公表後、三菱自の株価は前日比16.1%のストップ高。プラグインハイブリッド車「アウトランダーPHEV」でも不正が発覚するなど、どこまで傷口を広げるかが不透明の中で、「ゴーン流」が三菱自の骨の髄まで染み付いた「不正体質」にどこまで切り込めるのかにも注目が集まっている。

 その一方で、ネット上では興味深い見方がちょこちょこ出ている。

 三菱自に燃費不正が発覚して、資本提携までの流れというのは、実は日産側が三菱自を手中に収めるために描いた「シナリオ」ではなかったのか、というものだ。

 ご存じのように、今回の不正は合弁会社で軽自動車の共同開発を行っている日産側の指摘で明らかになった。そんな「告発者」が不正公表から1カ月もたたぬうちに、株式の34%を取得する。アジア市場に強く、パジェロやデリカD:5などSUVで確固たるブランドを築く三菱自は日産の弱点を補完できる。それを株価下落のおかげで2370億円ぽっちで手に入れる。そのあまりの手際の良さに、「ハナからこういう筋書きだったんじゃね?」なんて声がチラホラと出てきているのだ。

 「疑惑」にさらに拍車をかけているのが、銀行、重工、商事と三菱グループ御三家が思いのほかアッサリと引き下がっていることだ。

 2004年のリコール隠し後、経営再建のため三菱自の会長も兼務した西岡喬・三菱重工会長が、「三菱自動車を見捨てるなんて、全く考えていない」と宣言したことからも分かるように、三菱グループはこれまで主導権をよそに明け渡すことはなかった。それがこのようになんの軋轢(あつれき)もなく、スムーズに委譲されるというのは、日産側が不正を把握した時点から、御三家に対してなにかしらの「根回し」を行っていたのでは、というのは誰でも思う。

 ただ、日産側はこのような「シナリオ説」を明確に否定している。

日産と三菱自は「主導権争い」をしていた

 三菱自動車の益子修会長とともに資本提携を公表した共同記者会見で、記者から燃費不正問題が提携に発展すると想定していたのか? という質問をされたゴーン社長は、語気を強めてこのように回答した。


 「予想したか。それはないでしょう。状況を把握し、益子さんとの話で実現に至った。今回の事象で加速された感があるが、これまでも検討してきた」(産経ニュース5月12日)

 ご本人がおっしゃっているのだから、これが「真実」なのだろう。ただ、この会見後もいまだに「燃費不正問題を買収に利用したのでは」という憶測はとどまることはない。なぜこのような「陰謀論」がもてはやされてしまうのか。個人的には、主に3つの理由があると思っている。

 まず、ひとつ目には自動車業界、特に欧州のメーカーでは「わりとよく聞く話」ということがある。主導権争いをしている2社が不正や経営危機などの「敵失」を買収に利用するのは「常識」といってもいい。

 例えば、フォルクスワーゲンとポルシェのケースが分かりやすい。ルーツを同じくする「兄弟会社」として熾烈(しれつ)な主導権争いが繰り広げていた2社は、今でこそVWがポルシェを傘下に収めているが、逆の時代もあった。2005年、ポルシェがVWに20%出資して筆頭株主となり、完全子会社化まで持ち込んでいたのだ。

 それがリーマンショックでポルシェの財務状況が急速に悪化。その「好機」を見逃さなかったVWが一気に形勢逆転。「救済」という形で主導権を握り、逆にポルシェを傘下に組み込んだのである。

 実は、日産と三菱自も「主導権争い」をしていた。合弁会社NMKVで企画・開発する軽自動車の生産は、三菱自の水島製作所で生産するという契約となっていたのだが、2014年6月の定期株主総会でゴーン社長が「将来的には軽自動車を日産の工場で生産する」と言い出したのだ。

ゴーン氏と益子氏の蜜月関係

 すったもんだがあったが結局、2015年10月の基本合意では引き続き水島製作所で行うこととなった。その一方で、「設計開発、実験など実際の開発業務については、今後、日産自動車もより深くかかわる」(プレスリリースより)という方針が強調されるなど、「開発」は日産主導だと印象づけた。

 そんなパワーゲームの最中、渦中の軽自動車で相手の「不正」を見つける。これを「主導権争い」に利用しようというのは、ごく自然な流れだ。ましてや、日産はゴーン社長以下、経営幹部が外国人というほぼ外資。「敵失」をただ指をくわえて見ているような、のんびりとしたカルチャーなのか、という疑問も浮かぶ。

 ただ、そんな状況証拠だけで「陰謀論」が囁(ささや)かれているわけではない。やはり、大きいのは2つ目の理由だ。それは「ゴーン氏と益子氏の蜜月関係」だ。

 今回の資本提携を公表した共同記者会見で、益子会長は資本提携協議が始まった時期について、日産と軽自動車を共同開発をスタートさせた2011年が「非常に大きなきっかけになった」と述べた。

 しかし、おっしゃるように「軽自動車」から協議が始まったというのなら2011年どころの話ではない。覚えている人も少ないだろうが、2004年の二度目のリコール隠しが発覚したとき、実は三菱グループ以外に真っ先に手を差し伸べたのが日産だった。

 経営再建策には盛り込まれなかったが、水島製作所の軽自動車部門を切り離し、日産との共同出資会社に譲渡する案があった。つまり、両社の軽自動車の共同開発をめぐる「協議」は2004年から行なわれていたのだ。

両社の蜜月関係はひっそりと続いていた

 当時、ゴーン社長も、「日産にとって三菱自を活用することはある。ぜひやりたい」と思いっ切り前のめり。益子社長(当時)も、「その可能性は消えていない。両方にメリットがあれば前向きに取り組む」とまんざらでもなかった。三菱商事自動車事業本部長だった益子氏は海外経験が豊富でゴーン氏とウマがあった。互いの利益も一致しており、提携は秒読みだった。

 実際、2004年10月28日の日本経済新聞は「三菱自、日産と軽自動車で提携――来春にも新会社、国内販売立て直し」と報じ、水島製作所を新会社に譲渡することなどを含め日産との間で調整しているとした。

 だが、残念ながらこの提携話は「幻」に終わる。

 独・ダイムラークライスラーからの経営支援を打ち切られたことで、三菱グループがガッツリと管理下に置くという方針となったからだ。

 ただ、両社の蜜月関係はひっそりと続いていた。2005年、三菱自は仏プジョー・シトロエン(PSA)にSUVをOEM供給する業務提携をスタート。また「三菱・プジョー・シトロエン連合」などという話も出たが、2010年3月に資本提携の交渉が打ち切り。入れ替わるように「パートナー」としての存在感を増してきたのが、日産だ。

 2010年12月14日に、協業拡大を公表。日産のゴーン氏と益子社長(当時)が催した共同記者会見は、「業務提携の範囲にもかかわらず資本提携並みに仰々しく豪華にセッティングされた会場」(週刊ダイヤモンド2011年1月1日)で行われた。

 なぜここまで気合いが入っていたのか。2005年のPSAとの業務提携発表よりも華々しくというルノーの見栄もあったかもしれないが、2004年から水面下で進めてきた「交渉」がようやくまとまったということも大きい。実際、当時の日経産業新聞(2010年12月15日)には関係者談として、「6年越しに、ようやく一歩を踏み出した感じだ」という言葉が掲載されている。

 では、このような両社の「蜜月関係」はいつから始まったのか。さかのぼると三菱自が最初のリコール隠しで窮地に立たされていた2000年ごろにゆきあたる。

「陰謀論」が囁かれる最大の理由

 静岡県富士市にCVT(自動車変速機)の世界的シェアを誇るジヤトコ株式会社という企業がある。日産が75%、三菱が15%出資しているこの企業が生まれたのは2002年。日産の子会社「ジヤトコ・トランステクノロジー」と、三菱自の水島製作所など三工場の変速機部門が事業統合をした。国内自動車メーカーが基幹部品で手を結ぶのは初のことだった。


 「日産、三菱はともに外資の支援を受けて経営再建中で、開発コストを抑える必要があった。特に三菱はリコール隠し事件の後遺症で販売低迷が続いており、今回の統合も三菱側が提案した」(読売新聞2001年10月5日)

 ゴーン氏が日産に乗り込んだのは1999年。その剛腕で経営を建て直す一方で、スケールメリットを求めて事業拡大に意欲をみせていた。つまり、益子会長にとってゴーン日産というのは、自身が三菱自に送りこまれた10年以上前から提携交渉を進めてきた「パートナー」であるとともに、2000年、2004年という経営危機が起きるたびに手を差し伸べてくれた「恩人」でもあるのだ。

 そんな日産が、三菱自側の燃費データに不審な点があると気づいたのは昨年11月だ。二度あることは三度あるではないが、今回もいち早く三菱自に手を差し伸べて、「傘下入り」という救済策を示したとしても、特に驚くような話ではない。

 このような両者の蜜月関係が「実はシナリオどおり」という疑念を抱かせていることは間違いないが、それをさらに「陰謀論」にまで押し上げてしまっている要素が別にある。それが3つ目の理由である「益子会長の不自然な立ち振る舞い」だ。

 燃費データ不正問題が発覚後、益子会長はなかなか公の場に現われず、はじめて登場したのは5月11日に開かれた謝罪会見である。その理由はこのように述べた。

 「執行部門のトップである相川社長に委ねておりましたが、社内調査がある程度まで進みましたので、監督側の代表として直接ご説明申し上げるのが適切と考え、本日参った次第です」

 ただ、これはあまりしっくりこなかった。

日産と三菱自の「資本提携」は悲願

 謝罪会見でボコボコにされた相川哲郎社長は、最高執行責任者(COO)。会長に退いたとはいえ最高経営責任者(CEO)はいまだに益子氏である。企業の存続にかかわる不祥事の対応に経営トップが初動からノータッチというのはどう考えても解せない。日経編集委員の西條郁夫氏も以下のように指摘している。


 「益子会長は三菱自動車の社長になった直後の2005年3月に今回と同じ国土交通省の記者クラブで会見し、情理を尽くした説明で「リコール隠し糾弾」にいきり立つ記者クラブの面々を納得させた一幕があった。それほどのコミュニケーションの名手がなぜ今回不在だったのか」(日本経済新聞4月26日)

 これはまったく同感だった。益子氏はこの9年、三菱自を守るため常に先頭で奮闘してきた。そんな人物が最も出なくてはいけない場に出てこない。もはや引責辞任は避けられないなかで今さら、責任逃れをしてもしょうがない。なにか理由があるのかと首を傾げている矢先、11日にようやく登場。そして翌日には日産のゴーン社長との共同記者会見に登壇されるのを見て、ようやくモヤモヤが消えた。

 日産と三菱自の「資本提携」というのは長く進められてきた悲願だ。その記念すべき日の「顔」となるのは、2004年から蜜月にあったゴーン氏と益子氏と決まりである。

 そうなると、燃費不正問題の会見では出せない。当然だ。相川社長が「不正の三菱」を象徴する顔となってしまったことからも分かるように、益子会長にネガティブなイメージが付いてしまうからだ。

 これは非常に興味深い。三菱自が燃費不正で益子会長を「温存」していたということは、不正を公表した時点ですでに益子会長を「資本提携の顔」にする方針が定まっていたということになるからだ。

 すべては「日産三菱」をつくるための筋書き通り――。ご本人たちは否定されているが、今後のことを考えると、このようなイメージを広めたほうが良い気もする。

 これでルノー・日産・三菱自は世界3位のGMにも手が届く。ゴーン社長は、かつて三菱自と組んでいたPSAとの大連合も視野に入れているという。「世界一」の座はきれいごとだけではつかめない。「陰謀論」がバンバン沸き起こるほどの「したたかさ」はむしろ必要ではないか。権謀術に長け、ギラギラした目で野心に燃えた「日産三菱」になることを期待したい。

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スズキも走行試験で不正 燃費データ問題、三菱自動車以外にも拡大

三菱自動車の燃費データの不正問題に関連し、スズキも燃費データを取得する際に実施した走行試験で不正があった疑いがあることが18日、分かった。スズキの鈴木修会長が同日、国土交通省に報告する方針だ。

 燃費不正問題が、軽自動車大手のスズキに広がったことで、日本の自動車産業に対する一段の信頼低下が避けられない状況だ。

 三菱自は、軽自動車4車種の燃費データを良く見せかけるため、燃費データを改竄(かいざん)していたが、スズキではこうしたデータの改竄行為はなかったとしている。燃費性能を算出する際に基となるデータを法令と異なる方法で測定していた可能性がある。

 国交省は、三菱自の燃費不正問題を受け、4月下旬に三菱自以外の自動車メーカーにも不正の有無を調査し、今月18日までに報告するよう指示していた。スズキの鈴木会長は10日の決算会見で「(燃費不正は)ない」と説明していた。

 スズキは国内では軽自動車を主力とし、ダイハツ工業と激しい首位争いを繰り広げている。平成27年の軽自動車の新車販売台数は、ダイハツが60万8772台と首位で、スズキは55万9704台で2位だった。

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スズキも不正測定 燃費データ、国の規定と異なる方法


 三菱自動車の燃費偽装問題に絡み、スズキでも、自動車の燃費試験データを、国の規定とは異なる方法で測定していたことがわかった。鈴木修会長が18日午後、国土交通省に報告する。燃費の測定方法をめぐる問題は、業界に広がる可能性が出てきた。

 三菱自の問題を受け、国交省は自動車メーカー各社に不正の有無について、18日までに報告するよう求めていた。スズキ関係者らによると、同社の社内調査で、燃費試験に使われるデータ測定が、国の定める方法通りに行われていなかったという。

 三菱自では1991年以降、道路運送車両法に基づいて国が定める「惰行法」でない「高速惰行法」という方法で、燃費算出の元データとなる「走行抵抗値」を算出していた。三菱自はカタログの燃費値との間に大きな違いはないとしているが、国交省が調査を進めている。

 スズキは軽自動車大手で、三菱自などとの間で激しい燃費性能競争を繰り広げていた。

 国内メーカーでは、トヨタ自動車と日産自動車は「不正はなかった」と国交省に報告している。


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スズキ、規定と異なる燃費測定 「アルト」など16車種

スズキは18日、販売中の軽自動車など全16車種で、国の規定と異なる方法で燃費のもとになるデータを測定していた、と発表した。不正な測定をしていたのは2010年ごろからで、対象は210万台超にのぼる。スズキは、テストコースが海沿いで風の影響を受けやすく、規定通りの測定が難しかった、などと説明している。改めて規定通りに測定したところ、公表燃費との差はほとんどなく、修正はしないとしている。生産・販売も続ける。

 会見した鈴木修会長は「深くおわび申し上げたい」と謝罪した。海外での販売車種は、それぞれの国の規定に沿って測定しており、問題はないという。

 該当車種は、軽が「アルト」「アルト ラパン」「ワゴンR」「ハスラー」「スペーシア」「エブリイ」「キャリイ」「ジムニー」で、登録車は「ソリオ」「イグニス」「バレーノ」「SX4 S―CROSS」「スイフト」「エスクード2・4」「エスクード」「ジムニーシエラ」。

■スズキが燃費で不正測定していた全16車種

【軽】

アルト(2014年12月22日発売)

アルト ラパン(15年6月3日発売)

ワゴンR(12年9月19日発売)

ハスラー(14年1月8日発売)

スペーシア(13年3月15日発売)

エブリイ(15年2月18日発売)

キャリイ(13年9月20日発売)

ジムニー(10年JC08対応)

【登録車】

ソリオ(15年8月26日発売)

イグニス(16年2月18日発売)

バレーノ(16年3月9日発売)

SX4 S-CROSS(15年2月19日発売)

スイフト(10年9月18日発売)

エスクード2.4(12年JC08対応)

エスクード(15年10月15日発売)

ジムニーシエラ(10年JC08対応)

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不適切な測定方法がとられたのは以下の16車種。海外での販売車両は今回の件とは無関係とのことです。


<軽四輪車>
アルト(2014年12月22日発売)、アルト ラパン(2015年6月3日発売)
ワゴンR(2012年9月19日発売)、ハスラー(2014年1月8日発売)
スペーシア(2013年3月15日発売)、エブリイ(2015年2月18日発売)
キャリイ(2013年9月20日発売)、ジムニー(2010年JC08対応)

 <登録車>
ソリオ(2015年8月26日発売)、イグニス(2016年2月18日発売)
バレーノ(2016年3月9日発売)、SX4 S-CROSS(2015年2月19日発売)
スイフト(2010年9月18日発売)、エスクード2.4(2012年JC08対応)
エスクード(2015年10月15日発売)、ジムニーシエラ(2010年JC08対応)

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岡山 倉敷 日産と三菱、軽のEVも共同開発へ 設計・調達は日産
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日産による三菱自動車救済が「実にベストなタイミング」と評価される理由

■三菱単体では、どのみち限界があった

日産自動車のカルロス・ゴーン社長と三菱自動車の益子修会長は12日午後、記者会見して、三菱自動車が実施する第三者割当増資に応じて同社の34%の株式を取得することを発表した。投資額は2370億円となる。これによって三菱自動車は、燃費データ不正問題にけじめをつけ、日産の傘下で再生を目指すことになる。

今回の両社の資本業務提携は、三菱自動車の燃費データ不正問題が引き金となったが、必然の流れでもあった。

現在の自動車産業は、動力源一つとっても、ハイブリッド、ディーゼル、PHV、EV、燃料電池車と多岐にわたり、莫大な開発投資がかかる。さらに今後は、人工知能を使った自動運転にも大きなリソースを割かなければならない。1兆円を超える研究開発費を有するトヨタですらリソース不足に陥っている状況だ。

こうした中で、三菱自動車の研究開発投資額は787億円でトヨタ自動車の10分の1にも満たない。生産で同規模のマツダの研究開発費(1166億円)にも及ばない。これでは、次世代の技術開発の流れにはついていけないのが現実だった。三菱自動車を擁護するわけではないが、少ない開発費で燃費技術の開発など競合他社並みのパフォーマンスを求めようと思えば、燃費データの不正を続けるしかなかったと見られる。

三菱自動車は多くの消費者がご存じのように、2000年と04年の過去2回、大規模なリコール隠しを行ったことで経営的に窮地に陥り、国内の消費者にも見放された。経営破たんしてもおかしくない状況に追い込まれたが、三菱グループの三菱重工業、三菱商事、三菱東京UFJ銀行の「三菱金曜会御三家」が優先株を引き受けるなど財務的な支援を行うことで何とか生き延びてきた。中でも重工と商事が中心となって再建を支援してきた。

三菱重工の自動車部門から独立したのが三菱自動車であり、現在では両社で大きな取引はないものの、「産み落とした者」の責任として重工は自動車を支援した。三菱商事はインドネシアなどで三菱自動車を販売して収益を出していることから自動車を支援した。

しかし、前述したように自動車産業の潮目がここ2、3年で大きく変わり、自動運転やこれまで以上に燃費が良い動力源の開発に力を注がなければならなくなった。しかも、競合相手は同じ自動車メーカーだけではなく、グーグルやアップルなどの異文化のIT企業との熾烈な主導権争いになった。

こうした局面では、同じ三菱グループだから支援するといった、いわゆる「情実的な支援」では三菱自動車の将来は立ち行かなくなっていた。これまで三菱自動車を支援してきた三菱商事の垣内威彦社長が「いかなる事業にも寿命がある。事業のライフサイクルに応じた望ましい株主がいる」と言うのは、まさしく三菱グループの支援だけでは限界に来ていることを示唆していた。

■競合他社を大きく刺激する一手

12日の記者会見でも三菱の益子修会長は「日産とは軽自動車での協業だけではなく、三菱のタイ工場で日産の車を造ったこともあり、他の協業の可能性もあると常に検討してきた。その流れでいつかは資本提携と考えていた。今回の不祥事でその流れが早まった」と語った。

そして、今回の日産と三菱の資本提携によって、自動車産業は1990年代後半に活発化した合従連衡の時代に再び突入する機運を高めている。日産―ルノー連合軍はドイツのダイムラーやロシア大手のアウトバズとも提携しており、そこに三菱が参入する。日産とルノー、ダイムラーともに東南アジアは強くないが、三菱は利益の半分近くを東南アジアで稼ぐほど強いため、シナジー効果も期待できる。

そして、海千山千の経営者であるゴーン氏はアライアンスを取りまとめるのがうまい。一方、トヨタの豊田章男社長は「うちはアライアンスが下手」と自認するほど提携戦略がうまいとは言えない。

今回の日産と三菱の資本提携が競合他社を大いに刺激する可能性は高い。依然としてスズキがトヨタの傘下に入るのではないかとの観測が持たれているのも、業績が好調なスズキですらも単独での生き残りが難しくなってきたからだ。

同じく業績好調なマツダも、将来的には単独での生き残りは容易ではないと見られる。昨年、トヨタと業務提携したが、いずれ資本提携にまで進展する可能性もある。

その意味でも日産と三菱の資本提携は、歴史的な出来事といえるのだ。

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主な流れ メモ
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 三菱自動車が軽自動車4車種の燃費試験に使うデータを恣意的に改ざんしていたことを明らかにした。同社は2000年以降にリコール(回収・無償修理)隠しが相次いで発覚、経営危機に直面した。近年、業績は回復に向かっているが、消費者の信頼を取り戻すのは一段と難しくなった


■日産の指摘で発覚


『三菱自動車の相川哲郎社長は20日、国土交通省で記者会見し、同社が生産する軽自動車4車種で燃費試験時に、燃費を実際より良く見せるためにデータを改ざんする不正が行われていたと発表した。』


『相川社長は「お客さまと関係者に深くおわびする」と陳謝した。』


『三菱自の「eKワゴン」など2車種と、同社が受託生産し日産自動車が販売する「デイズ」など2車種が対象。いずれも2013年6月に発売。2016年3月末までに計62万5000台を販売した。』


三菱自、燃費5~10%不正に上乗せ 軽4車種62万台(4月20日)


三菱自動車の「eKワゴン」(右)と日産自動車の「DAYZ」(2013年5月、岡山県倉敷市の三菱自動車水島製作所)


『タイヤの抵抗や空気抵抗の数値を操作し実際より燃費が良くなるよう届け出ていた。』


『実際の燃費は届け出数値より5~10%悪くなる可能性があるという。三菱自のeKワゴンの場合、販売中の車の燃費性能はガソリン1リットルあたり30.4キロメートルと公表していた。同3キロメートルほど水増ししていたことになる。』


『不正の詳細は調査中だが、担当部署の当時の部長が「自分が指示した」と話しているという。』


三菱自、燃費5~10%不正に上乗せ 軽4車種62万台(4月20日)




『三菱自の不正は、軽自動車の開発・生産で提携する日産の指摘で発覚した。』


『次期車の開発を担うことになった日産が参考とするため、2015年秋に三菱自が開発した従来車種の燃費を測定したところ、国交省に届け出た値との乖離(かいり)が判明。自浄作用が働いていなかったといえる。』


日産の指摘で発覚 過去にもリコール隠し、体質変わらず(4月21日)



名古屋製作所に立ち入り検査に入る国交省の担当者(21日、愛知県岡崎市)



『国土交通省は21日午前、前日に続き開発部門のある同社名古屋製作所(愛知県岡崎市)を道路運送車両法に基づき立ち入り検査した。同社がどのような走行実験を実施していたのか社内の資料を詳しく調べるとともに、関係者からも事情を聴く。』


『同省は、三菱自に対し27日までに詳細を調査し報告するよう指示している。不正が行われた経緯などを調べ、行政処分も検討する。』


三菱自に立ち入り検査 国交省、燃費不正解明へ(4月21日)


■激しい軽のシェア争い


『国内の軽自動車は価格や税金の安さなどを背景に2015年度の車名別新車販売では上位10車種のうち6車種を軽が占めるほどの人気だ。』


『ただ、競争は激しい。ダイハツ工業、スズキのトップ2などに比べて企業体力に劣る三菱自に焦りがあったとの見方が出ている。』


三菱自不正、影響拡大も 海外向け車両も調査(4月21日)



『ダイハツ工業の「ミライース」やスズキの「アルト」など、燃料1リットルあたりの走行距離が30キロメートル台後半で競争を繰り広げている。』


『ある販売店幹部は「ガソリン価格が一時に比べて下がったとはいえ、エコカー減税もあり、消費者は燃費の良さには敏感だ」と話す。』


軽、激しいシェア争い(4月22日)


■「リコール隠し」で経営危機に


『同社をめぐっては2000年と04年に「リコール隠し問題」が発覚し、信頼を大きく失った経緯がある。』


三菱自、過去の教訓生かせず 苦悩の色浮かべ社長陳謝(4月21日)



『三菱重工の自動車部門が分離して1970年に発足した三菱自動車は、90年代に多目的レジャー車(RV)「パジェロ」のヒットなどで成長。2000年には独ダイムラークライスラー(現ダイムラー)から3割の出資を受け傘下に入った。』


『だが同年、トラックが脱輪・死傷事故を起こし組織的なリコール(回収・無償修理)隠しが発覚。04年には新たなリコール隠しも明るみに出た。』


『ダイムラーは三菱自の商用車事業を買収し「三菱ふそうトラック・バス」として傘下に置いたが、乗用車事業での提携は解消。三菱自は経営危機が深まった。』



『ダイムラーに代わり支援に乗りだしたのが三菱グループ3社。04~05年に総額6000億円規模の優先株を引き受けた。05年には三菱商事出身の益子修社長が就任し再生を目指してきた。』


三菱自、提携戦略が焦点 優先株処理で規模拡大目指す(2013年9月12日)


『自動車業界では大手と中堅の戦略の違いが鮮明になりつつある。』


『トヨタや独フォルクスワーゲン(VW)、米ゼネラル・モーターズ(GM)などの大手は世界販売を年1千万台前後まで伸ばし、なお生産拠点の拡大競争を続ける。』


『世界販売120万台の三菱自などは戦略の強弱を付けざるを得ない。すべての地域で展開するよりも得意分野に絞り込む戦略を急ぐ。』


中堅車メーカー、進む選択と集中 三菱自、米生産撤退を発表(2015年7月28日)




『三菱自はリコール隠し問題による経営危機を脱し、14年に16年ぶりに復配していた。今回の不正問題が経営に与える影響は大きく、企業体質が再び厳しく問われる。』


三菱自、燃費5~10%不正に上乗せ 軽4車種62万台(4月20日)
三菱自動車が燃費データ不正 遠のく信頼回復 


『過去の教訓が生かされなかった理由を問う質問に、相川社長は「コンプライアンスを浸透させようとやってきたが、社員一人ひとりに浸透できなかった」と言葉を絞りだした。』


三菱自、過去の教訓生かせず 苦悩の色浮かべ社長陳謝(4月21日)


販売店への影響も必至(三菱自の都内販売店、左がeKワゴン)



■消費者に怒り


『三菱自動車の販売店では21日朝から従業員が顧客への説明に追われた。不正が明らかになった「eK」シリーズを注文した顧客に連絡をとり、納車できなくなったことを謝罪した。』


『愛知県に住む自営業の男性(42)は「スズキなど他社のクルマも検討したが、価格が安く燃費もさほど見劣りしなかったので購入を決めた」と語り、「ごまかされていたのかと思うと腹が立つ。下取り価格などに影響が出た場合は、誰が責任を取ってくれるのか」と怒りをあらわにしていた。』


顧客「ごまかされた」怒りあらわ 謝罪に追われる販売店(4月22日)


『高市早苗総務相は22日の閣議後の記者会見で、三菱自動車の燃費試験データ改ざん問題を巡り、燃費が良い車の税負担を減らすエコカー減税の減税額が変わった場合、三菱自が差額を負担するのが「当然だと思う」と述べた。』


『「買った方は当然エコカーであると信じて買ったので、遡って税負担される必要はない」と購入者に負担を求めない考えを示した。』


三菱自動車のエコカー減税差額負担、総務相「当然」(4月22日)

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「日産・三菱自」国内の取引先調査から見えてる試練  (岡山県知事、倉敷市長、総社市長さん お願い 「日産」にも訪問を・・)

(  岡山県知事、倉敷市長、総社市長さんらのがんばりは、ありがたいですね! さらに できれば、日産のゴーンさんに面会して欲しいですね!)


重複メーカーの整理などこれから大きな試練が

  5月12日、燃費試験データの偽装問題で揺れている三菱自動車は、日産自動車と業務提携に向けた基本合意書を締結し、日産を割当 とする第三者割当増資をすることを発表した。

  今回の発表を受け、東京商工リサーチは日産と三菱自の取引状況の緊急調査を実施した。その結果、直接取引がある1次仕入先は日産1,520社、三菱自 1,068社で、2社と取引している先(重複取引)は277社だった。産業別の1次仕入先は、日産、三菱自ともに製造業が最も多かった。

  資本金別でみる と、1次仕入先では資本金5千万円未満(その他含む)が日産では構成比59.8%(909社)、三菱自で同62.7%(670社)となり、三菱自の仕入先 の中小企業は日産より2.9ポイント高かった。
 日産の主導による再建が進んでいくが、業務提携による影響が取引先にどのように波及していくかが注目される。

※本調査は、日産と三菱自(ともに単体)の仕入先、販売先を1次(直接取引)、2次(間接取引)に分けて、企業情報サービス「tsr-van2」の企業相関図を活用し、業種や地区などで集計、分析した。
※1次取引先は直接取引のある取引先。2次取引先は1次取引先と直接取引がある間接取引を示す。

 <産業別、仕入先は2社ともに製造業が最多>

  日産の1次仕入先は1,520社。外注など下請が多く占める製造業が691社(構成比45.4%)で最多 だった。以下、卸売業307社(同20.2%)、サービス業他278社(同18.2%)、情報通信業125社(同8.2%)、建設業46社(同3.0%) と続く。1次販売先は366社で、販売店(ディーラー)向けを指す小売業が160社(同43.7%)と最も多かった。

  三菱自の1次仕入先は1,068社だった。日産と同様に製造業が最多で544社(同50.9%)と過半数を占めた。次いで、卸売業232社(同 21.7%)、サービス業他138社(同12.9%)、運輸業48社(同4.4%)の順。1次販売先は305社で、小売業が126社(同41.3%)と最 も多かった。

 <重複取引先、1次仕入先は277社>

  日産、三菱自の2社と取引している先(重複取引先)は、1次仕入先が277社だった。このうち、製造業がの 78社(構成比64.2%)が最多で、卸売業63社(同22.7%)、サービス業他17社(同6.1%)の順だった。日産の1次仕入先(1,520社)に 占める重複取引先の比率は18.2%、三菱自(1,068社)は同25.9%となった。

  地区別の1次仕入先では、日産は関東が1,141社(構成比75.0%)と関東に本社を置く企業との取引 比率が7割を超えた。次いで中部の158社(同10.3%)だった。一方、三菱自は関東が374社(同35.0%)で最多だったが、名古屋製作所がある中 部は298社(同27.9%)、水島製作所がある中国は175社(同16.3%)と製造拠点がある地区に本社のある企業との取引比率が高く、日産との違い が表れた。

  日産の2次仕入先は、1次と同様に関東が最も多く2,870社(構成比56.5%)だった。次いで中部859社(同16.9%)、近畿740社(同14.5%)の順。

  三菱自の2次仕入先は、関東が1,610社(同39.0%)で最多で、中部1,112社(同26.9%)と続く。中部は、日産では1次、2次仕入先ともに10%台であったのに対して、三菱自では3割近くに及んでおり、中部経済への影響が注目される。

資本金別、三菱自の1次仕入先は中小企業が多い

  1次仕入先の資本金別では、日産は資本金5千万円未満(その他含む)は1次全体の59.8%(909社)を占めた。三菱自では62.7%(670社)となり、三菱自が日産よりも中小企業との取引割合が多いことがわかった。

  三菱自は不正の公表後、軽自動車を生産する水島製作所(岡山県倉敷市)で一部生産を休止しており、同社の 仕入先も工場の操業を一部停止するといった影響が出ている。消費者の不信感も増大し、三菱自の販売店の売上が落ち込んでいるほか、日産も軽自動車の供給を 受けている関係で、日産の販売店にも影響を及ぼしている。

  三菱自の仕入先や販売店の不安が高まるなか、日産の出資を含めた業務提携が発表された。今後、日産主導で再建が進められていくことになるが、三菱自は度重なる不祥事より低下した信用を取り戻すまでに相当の時間が必要だろう。

  自動車は使用する部品点数が多いため、多くの協力業者との取引が必要で、雇用面などで地域経済に大きく貢献している。今回の調査で、三菱自は生産拠点が ある中部や中国地区に多くの仕入先を抱えていることがわかった。

  また、三菱自は日産よりも中小企業との取引比率が高いこともわかった。日産主導の再建によ り、三菱自の車種が絞られた場合、三菱自への売上依存度の高い中小企業の経営に大きな影響を及ぼす可能性があり、再建プランを注意深く見守る必要がある。

 <解説>
  登録済車の投げ売りなどが一部で始まっているとの声も聞かれ、深刻な影響が販売店を苦しめている三菱自禍。燃費不正はスズキや海外メーカーにも飛び火してもはや収まるところを知らない混沌状態へ。三菱自と運命共同体となった日産、そして当の三菱自の国内取引状況を、東京商工リサーチが発表した。今後統合が進めば、サプライチェーンの再構築などで下請けは重複メーカーの整理など、大きな試練が待ち受ける。


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日産、ゴーン流で再び“系列破壊” 世界3強との頂上決戦に備え改革着手

日産自動車のカルロス・ゴーン社長の経営改革が最終局面に突入した。10月には三菱自動車を事実上の傘下に収め、「量的」拡大で世界販売4位のルノー・日産連合を3位以内に導きたい考え。さらに電気自動車(EV)や自動運転など次世代技術の進化に「質的」対応を図るため、系列部品会社との関係の見直しに着手するなど、電光石火の改革で世界最強グループの形成を目指す。

 ゴーン社長の経営の神髄は「新たな価値への挑戦」「リスクを取る」「脱自前主義」の3つの哲学だといわれる。燃費不正問題で揺れる三菱自と資本業務提携するのは、まさに世界販売の拡大という新たな価値を得るためにリスクを取るという判断にほかならない。

 もう一つの哲学である脱自前主義は、ゴーン社長が仏ルノーから日産に乗り込んだ1990年代後半からの“系列破壊”の調達改革という形で実践した。割高でも系列会社から一定量を買う取引を見直し、競争原理を取り入れることで危機的な状況にあった日産をよみがえらせた。

最近でこそ、円安の進展などで系列を見直す動きは止まっていたが、ここにきて、再び日産が動いた。系列の自動車部品大手カルソニックカンセイの保有全株式を売却する検討に入ったのだ。

 日産は24日発表のコメントで「カルソニックカンセイの競争力向上につながるようなさまざまな選択肢を考慮し検討する」とした。

 この背景には業界を取り巻く構造変化がある。世界的な環境意識の高まりで、環境に優しいEVやプラグインハイブリッド車(PHV)の普及は急速に進む。自動運転など先端安全技術をめぐる世界競争も急だ。系列にとらわれていては変化に機動的に対応するのは難しく、一段の調達改革の断行が避けられないと判断した。

 日産はカルソニックカンセイ株の売却で得られる1000億円程度の資金を主に先端技術の投資に振り向ける考え。事業再編を巧みに駆使し、販売と技術の両面でトヨタ自動車、独フォルクスワーゲン(VW)、米ゼネラルモーターズ(GM)の世界3強との頂上決戦に備える。
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日産・三菱自 “電撃提携”の舞台裏


相次いだリコール隠しから10年余りを経て明らかになった三菱自動車工業の燃費不正問題。日産自動車が三菱自動車を事実上、傘下に収める業界再編に発展しました。不正の公表から、資本業務提携の会見まで僅か20日余り。普通なら考えられないスピードでまとまった提携劇を見ると、日産のカルロス・ゴーン社長の経営者としてのしたたかさが浮き彫りになってきます。
 日産・ルノーと三菱自動車を合わせれば年間の販売台数が950万台規模と、トヨタ自動車、フォルクスワーゲン、GM=ゼネラル・モーターズの世界トップ3に肉薄するグループが誕生することになる“電撃提携”。その舞台裏について、経済部・自動車業界担当の岩間宏毅記者と宮本雄太郎記者が解説します。

 
燃費不正の三菱自が打診

三菱自動車が、軽自動車4車種で実際より燃費をよく見せる不正を公表した記者会見から一夜明けた4月21日、日産のゴーン社長と三菱自動車の益子修会長が会談しました。

三菱自動車が生産し日産に供給している軽自動車2車種の生産・販売が停止したことなどについて、三菱自動車が謝罪するための会談でしたが、このトップ会談をきっかけとして、提携に向けた極秘交渉がスタートします。

提携を打診したのは三菱自動車でした。もともと年間の販売台数が100万台規模にすぎない三菱自動車が今後も生き残っていくためには、ほかの自動車メーカーとの本格的提携が必要だと考えていた益子会長。不正を行った、車づくりの根幹を担う開発部門の改革を含めた支援を求めるなら自動車メーカーしかない、軽自動車を中心に協力関係を築いてきた日産しかないと判断したのです。


日産“34%”出資を決断

提携を打診された日産の対応は素早いものでした。

三菱自動車に燃費不正の原因や影響が広がるリスクなどの説明を求めたうえで、大型連休を返上して、ごく限られたメンバーで出資比率などを検討。その結果、三菱自動車に示した案は、「日産が三菱自動車に34%出資する」というものでした。

34%の出資というのは、日産が一気に三菱グループ主要3社を上回る筆頭株主となり、三菱自動車を事実上、傘下に収めることを意味します。日産の検討の過程では、燃費不正の真相解明や再発防止策がまとまる前に提携に乗り出すことは消費者や行政の反発を招きかねないとして、社内から慎重な対応を求める意見もあったといいます。

しかし、こうした意見に対しゴーン社長は、「早くやろう。疑心暗鬼やうわさが広がることもよくない」と逆に交渉の加速を指示。連休明け早々に、社内の各部門の担当役員に、両社の業務提携で期待できるメリットを報告するよう指示を出します。そして、不正の公表から20日後の今月10日に両社の資本業務提携が固まりました。両社のトップがそろって会見した日の2日前のことでした。


ゴーン社長の“したたかさ”

まれに見るスピードで進んだ提携劇ですが、日産・ルノーで世界トップを目指してきたゴーン社長のしたたかさも浮き彫りになります。

今回の提携では、日産が三菱自動車に対し2373億円を出資します。巨額な資金には違いありませんが、燃費不正の影響で三菱自動車の株価が問題発覚前より大きく下落したことを考えると、出資額は大幅に減ったという見方もできます。

不正が拡大する懸念などに対しては、外部の調査委員会による不正問題の調査や三菱自動車への資産査定で重大な事実が出ないことを出資の条件としていて、リスクを排除する手を打っています。

さらに、日産と三菱グループ3社を合わせて出資比率が過半数とする内容も盛り込み、引き続き三菱グループが主要株主として日産と協力する枠組みを設け、東南アジアなどで強い三菱の「スリーダイヤ」ブランドを維持できるようにしています。

これらを満たしたうえで、開発や購買など幅広い分野で三菱自動車との提携効果を発揮し、世界戦略を強化するねらいなのです。

 

不正問題への対応が課題

その一方で、燃費不正の問題でいちばん迷惑を受けている軽自動車4車種の顧客に対する補償を、三菱自動車はまだ示すことができていません。

軽自動車の生産停止は6月も続き、その後の再開の見通しもたっておらず、部品メーカーへの影響も広がっています。深刻な経営不振に陥りルノーとの提携を決めた当時の日産にゴーン氏が迎え入れられ経営を立て直したときと比べて、今の三菱自動車の置かれた状況は大きく異なります。

そうしたなかでの今回の“電撃提携”は果たして成功するのか。

その第一歩としては、不正のあった軽自動車の顧客が納得できる補償を行うことや、日産から迎え入れる元役員を中心に開発部門の改革を進めることなどを通じて、三菱自動車がどのように信頼回復への道筋をつけていけるのかが問われることになります。

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三菱自で暫定政権、日産が狙う「リスクは避け果実は取る」
日産自動車が燃費不正問題で窮地に陥っている三菱自動車への資本参加を表明してから2週間。両社は正式に資本業務提携の契約を結び、6月末に発足する新たな経営体制の布陣を固めた。その背景には、買収者である日産の狙いが透けて見える。

「日産側の人選は、最初から山下(光彦・日産自動車上級技術顧問)さんで決まっていた」(三菱自動車関係者)

 5月25日、日産と三菱自は資本業務提携を前提とした契約を締結し、6月末に発足する新経営体制を固めた。

 益子修会長(67歳)は社長職を兼務して留任し、副社長に山下氏(開発担当。63歳)、三菱商事出身の白地浩三・三菱自常務執行役員(海外担当。62歳)、池谷光司・三菱東京UFJ銀行(BTMU)専務執行役員(財務・経理担当。58歳)の3人が就いた。同時に、燃費不正問題の責任を取り、相川哲郎社長が退任するなど、取締役会メンバーは大幅に入れ替わる。

 今回の幹部人事は、二つのことを示唆している。

 一つ目は、日産が出資を完了するまでの暫定政権では、三菱自の経営グリップを握るのは益子会長であり、日産は三菱自を“遠隔統治”する体制になっていることだ。

 山下氏は、日産では一貫して開発畑を歩み、副社長まで上り詰めた人物。電気自動車の開発や、メーカーの枠組みを超えた規格標準化を推進するなど、実績は十分ではある。だが、日産副社長の職を解かれて2年。今春には藍綬褒章を受章するなど、「いわば、過去の人」(日産幹部)。開発現場の第一線を仕切る、現役のエース級を送ったわけではない。

 この背景には、日産側の意図がありそうだ。日産は、山下「副社長」を落下傘として据えながらも、燃費不正問題には直接的には関与しない。あくまでも三菱自と三菱グループ(三菱商事、BTMU、三菱重工業)に不祥事の片を付けさせる算段なのだ。燃費不正による損失規模が見えない中、日産が三菱グループをリスクヘッジの緩衝剤として利用している。

 二つ目は、これまで足並みをそろえて三菱自を支援してきた三菱グループの対応が割れて、三菱重工が一歩引いたことだ。

 三菱商事とBTMUが「副社長ポスト」に派遣するのに対して、三菱重工は幹部派遣を見送った。常勤の役員以上で残る三菱重工出身者は、野田浩専務執行役員ただ一人となってしまう。

 三菱グループが持つ三菱自株式約34%のうち、三菱重工は20%を保有する筆頭株主。だが、「三菱重工が匿名組合を経由して保有している7.37%については、組合解消で手放す方向」(三菱グループ幹部)だ。人事だけではなく、資本においても、三菱重工はフェイドアウトしていく方向だ。


四つの重要テーマ と 二つのサブテーマ  動きだした日産


 リスクは三菱グループに引き受けてもらい、果実は自らで搾り取る──。今回の三菱自買収に対する日産の姿勢は徹底している。経営手法が“遠隔統治”だからといって、今後、日産が三菱に生易しい態度を取るわけではない。


 「三菱グループの“進駐軍”のように大勢の人を出向・転籍させなくとも、話し合いベースで協業効果を得られるのは仏ルノーで実証済み」(日産幹部)なのである。


 今秋にも日産は、三菱自株式の34%を約2370億円で取得することになっている。この買収金額は、不正発覚前の株価水準からすれば半値に近い。この絶妙なタイミングで支援を買って出るほどに強かな日産が、三菱自に厳しい改革を迫らないはずがない。


 実際に、日産社内では果実を搾り取るための、三菱自プロジェクトが立ち上がっているという。

 ある日産幹部によれば、「(軽自動車の開発・生産や燃費不正を除く)協業分野として、四つの重要テーマと、二つのサブテーマというふうに、優先順位をつけて議論が始まっている」。


 具体的には、

重要テーマは、
(1)共同購買、(2)開発(プラットホームの共有、内燃機関や電気自動車のパワートレイン、新規技術)、(3)生産、(4)ASEANであり、サブテーマとは販売金融とアフターサービスである。


 「日産だって、慈善事業で三菱自への投資を決めたわけではないのだから、その方針は理解できる」(BTMU幹部)としながらも、「三菱商事ががっぽりもうけてきたASEAN地域での販売分野では、商売がバッティングする。日産は脅威だ」(同)という。

 このように、日産が改革を迫る途上では、三菱自のみならず、三菱商事のビジネス領域でもあつれきは避けられないだろう。


 6月末には、カルロス・ゴーン・日産会長兼社長が、初めて三菱グループの首脳3人(垣内威彦・三菱商事社長、小山田隆・BTMU頭取、宮永俊一・三菱重工社長)と顔を合わせる機会が予定されている。三菱グループ側は、三菱自だけではなく、競合自動車メーカーや自動車部品メーカーなど商圏を生かしたプランをゴーン会長に提案する見込みだ。


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