リッター40km実現の新型プリウス登場で「第二次HV戦争」へ

「トヨタの『プリウス』といえばハイブリッド車(HV)技術のシンボルモデル。6年半ぶりにフルモデルチェンジするからには、生半可な性能ではダメだというプレッシャーが社内でも相当にあったはず」

 こう自動車業界の関係者が口を揃えるほど、トヨタは12月初旬に発売する4代目プリウスの開発に最大級の力を注いだ。そして、「もっといいクルマを」と発破を掛け続けた豊田章男社長も太鼓判を押す、ガソリン車国内最高燃費の40km(1リットルあたり)を実現させた。

 いまやクルマの購入動機に燃費の良し悪しは必須条件となっているが、小型車の「アクア」ほか燃費のいいHV車種を多く揃えるトヨタが、なぜ40kmの“大台”にこだわったのか。

 自動車ジャーナリストの井元康一郎氏がいう。

「近年、自動車業界はコモディティ化(差別化特性が失われること)が一気に進み、軽自動車やコンパクトカーの燃費も格段によくなっています。そんな中、HVの草分け的存在であるプリウスといえども、いつまでもチヤホヤされるとは限らない。

 そんなトヨタの危機感もあり、リッター40kmはどうしても打ち建てなければならない金字塔だったのでしょう」

 2000年代にホンダ「インサイト」と激しい“HV戦争”を繰り広げて圧勝したトヨタ。これまでにプリウス350万台超、HV車全体では累計800万台以上を売る「エコカーの雄」をもってしても、「常に改良させなければHVも普通のエコカーになってしまう」(トヨタ関係者)ほど技術革新の目覚ましい世界なのだ。

 事実、こんな話も聞こえてきた。

「ホンダが2013年にミドルクラスのセダン『アコードハイブリッド』でリッター30kmを実現させたが、トヨタは脅威を感じていたといいます。あのとき、ホンダが最新のHVシステムを中小型車に載せていたら、『トヨタVSホンダ』のHV戦争が再燃していたかもしれない」(業界関係者)

 もちろん、トヨタのHV技術も一層進化させているため、当面、他メーカーに猛追される心配は少なくなったはず。新型プリウスは燃費向上につながる小型・軽量化や内部抵抗を抑えた、いわば“新世代HVシステム”へと基本構造を一新させている。

 さらに、新しくエンジンやプラットフォーム(車台)、トランスミッションといったクルマの基本構造をさまざまな車種にも共通化させる「TNGA(トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー)」なる手法を導入する。つまり、プリウスの優れたHV性能を他の車種にも素早く“移植”できるというわけだ。

 だが、「ホンダもこのまま黙っていないだろう」と話すのは、前出の井元氏だ。

「今年、ホンダは『フィットハイブリッド』で度重なるリコールを出してしまったため、新車開発に遅れが出ているのかもしれませんが、HVシステムの基礎技術力は高く、底力のあるメーカーです。

 すでに新型プリウスをも凌ぐ燃費効率や低価格を実現させるべく、新型HVの開発に着手しているとの情報もあります。それが本当なら、2~3年後に“隠し玉”を出してくる可能性は十分にあります」(井元氏)

 トヨタは10月下旬に開催される「東京モーターショー2015」で新型プリウスを大々的に披露し、国内のみならず世界で販売強化を図っていく予定だ。

 独VW(フォルクスワーゲン)のディーゼル車不正問題でますますトヨタのHVに注目が集まるのは必至だが、その裏ではホンダだけでなく、日産やスズキなど国内のライバルメーカーが虎視眈眈と巻き返しを狙っている。

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新型プリウスは「燃費40キロ」だけじゃない

海外普及に向け、トヨタは何を訴求したのか


米国での初披露から約1カ月、トヨタ自動車は12月に発売する新型「プリウス」を日本でも公開した。

注目された燃費性能は、一部グレードで1リットル当たり40キロメートルを達成。現行プリウスの32.6キロから2割以上向上させた。国内ではトヨタの小型ハイブリッド車(HV)「アクア」とスズキの軽自動車「アルト」の37キロを抜き、トップ(電気自動車とプラグインHVを除く)となる。

グローバルでの普及に向けて、エコ以外も訴求

「現行プリウスの無駄をいかに省くかに技術革新を費やしてきた」(HVシステム開発統括部の伏木俊介氏)。

この言葉通り、超低燃費は既存のHVシステムを大幅刷新するのではなく、基本構造は踏襲しつつ、細かいカイゼンを積み重ねて実現したものだ。具体的には、モーターやバッテリー、制御ユニットの軽量化や損失低減を徹底し、それにガソリンエンジンの効率化や空力性能の一段の向上などを図った。

プリウスは1997年に世界初の量産HVとして発売した初代から現行の3代目までに全世界で350万台以上を販売してきた、トヨタのエコカーの看板である。その名に恥じない40キロを達成した新型だが、今回の売りはエコだけではない。

「グローバルで見るとまだまだHVは普及できていない。HVの良さをグローバルで広めていきたい」(プリウスのチーフエンジニアの製品企画本部・豊島浩二氏)。

HVは、日本国内でこそ市場全体の2割弱(軽自動車を除くと36%)を占めるが、全世界では2%台とマイナーな存在だ。HVは減速時の回生エネルギーから作り出した電気で、モーターを駆動させてエンジンを補う。市街地走行が中心で渋滞が多い日本は燃費改善効果が高いが、高速走行が多いとメリットは薄れる。

モーターや蓄電池のコストがかさむため、日本と米国の一部をのぞき、世界的には普及していないのだ。足元の原油安で世界的にガソリン価格も低迷している。「エコだけでクルマの価値を理解してもらうのは難しい」(豊島氏)

「エコ」のアピールは何番目?

そのため、トヨタは新型プリウスで4つのアピールをする。①かっこいい、②走って楽しい、③燃費がいい、④装備がいい。「エコ=燃費がいい」は3番目でしかない。“普通の”車として魅力を訴える作戦だ。

新型プリウスは「トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャ(TNGA)」と呼ぶ、トヨタの自動車づくりの革新を全面的に導入した第1号車種だ。TNGAは全体最適の視点から部品の共通化を従来以上に進め、生み出した余裕(コストやリソース)を車の魅力向上につぎ込む。豊田章男社長が掲げる「もっといい車づくり」を実現するための主軸だ。


シートの座り心地も改善した
 
TNGAの効果により、現行モデルより車体は低重心化。「かっこいい」かどうかは主観によるが、外観は間違いなくスポーティになった。ボディ剛性を高めることで、走りも飛躍的によくなったともっぱらの評判である。

今回、価格やグレードなどの詳細については語られなかったが、自動ブレーキなどの安全性も業界最高水準の機能を惜しみなく投入。「プリウス=さきがけ」に対するトヨタの気合いが感じられる。

他メーカーも含めて、日本でのヒットを疑う関係者はいない。本当の勝負は、年明け以降発売となる海外での評判だ。


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